MOTEL

バレクラ / pixiv ※性的表現あり

 そろそろだ、というのは肌で解った。
 長い移動や野宿が続き、戦闘だって少なくなかった。当然表には出さないが、そういう仲になってくると、互いがどんな状態なのかはその顔を見ればだいたい解る。そして、今日のクラウドの顔は、今まで見てきた中で一番熱に浮かされた顔をしていた。バレットにしか解らない熱が、ぴりぴりと肌に伝わって来さえした。マテリアなしのまま荒れ地を駆け抜け、小型のドラゴンめいたものと足場が不安定な場所で戦ったその影響もあるだろうが、今日のクラウドは明らかに「そう」だった。そして、もちろんバレットも。
 一度皆と同じ宿屋に部屋を取った後、右手の銃を義手に換装し、バレットは荷物を整理しているクラウドを残して外に出た。それなりに治安の良い街だ、一人でうろついても問題ないし、何より目立ちたくない。
(……ここか)
 人が固まって生活している場所は、よほどの文化の違いがない限り構造は自然と似てくる。あまりなじみのない街ではあったが、バレットが探していたものは案の定、大通りよりも少し離れた場所にあった。
 明かりの切れかけたネオン看板の下、あまり手入れされていないだろう古い扉を押し開けると、こぢんまりとした狭いロビーのその奥に、上半分だけ板で覆われたカウンターが見える。まだ夕方ということもあってか人の気配はあまりない。
「二人だ。後で一人来る」
 顔の見えない受付の男に告げると、特に何も言われず、古い金属製のトレイが前に出された。
「前払いだよ。泊まりで百、夜中までなら半分」
 バレットは五十ギルだけ、おいてあったプラスチックのトレイに出した。男の手がカウンターの向こうにトレイを引き込み、入れ違いで金属製のプレートに番号が書かれた鍵が差し出される。
「帰るとき、そこの箱に入れてくれりゃ良い」
 カウンターの端に置いてある木箱を見、バレットはその鍵を受け取った。
 部屋に向かって歩きながら、懐の通信端末を取り出し、慣れた手つきで操作して耳に当てる。
『——はい』
「オレだ」
 コール音は三回も鳴らなかった。薄暗い階段を上りながら、バレットはその声の主に返す。
「部屋取れたぞ。二階だ」
『ああ。悪い』
 部屋の番号と併せて建物の場所も教えてやると、端末を懐にしまい目的の部屋を探す。
 一番奥まったところに目当ての番号を見つけると、古い鍵を差し込み押し開けた。

***

 彼らがそういう関わりを持つようになったのは、大陸を渡ったその後、コスタ・デル・ソルでの夜のことだ。運搬船の中にひしめき合う神羅兵達の中に潜入し続けるというのは、バレットにとっては——もちろん他の皆にとっても——神経をすり減らすものだった。その苦行を終えて久方ぶりの酒を飲み、誰の目も気にしなくて良い宿屋の部屋に入った瞬間、バレットの箍は外れた。気がついたらその身体を押し倒し、暴き、蹂躙していた。
 まさか男に欲情することになろうとは思わなかったし、クラウドだって男に抱かれることになるとは思っていなかっただろう。だが、結果としてそれは二人の間の習慣になった。
 二人は道中、街に着くたびに身体を重ねた。最初は宿屋の部屋で、そのうちクラウドが行為に慣れてきて、声が抑えられなくなってからは別の安宿を取るようになった。もちろん、そういう目的で運営されているような場所だ。そして思う存分発散した後に、二人で宿に戻った。
「——っあ」
 今回もそうだった。
 バレットの下、白い身体を抑えつけながら、ぐいと腰を進める。ああ、と恍惚混じりの声が上がるが構わずにのしかかった。
「あっ」
「クラウド、——っクラウド」
「ふぁ、ああ、あ、……っあ――!!」
 逃げるように身体をよじるクラウドのその腰を、バレットは片手でぐいと引き寄せる。
「まだ、まだだ」
「あう、……バレット、バレットぉ」
「お前も足りねえだろ、な」
 そのまま手を滑らせ、熱を持つ中心を軽く握ると、また切ない声がクラウドの喉から絞り出される。ただそれ以上は刺激せず、またその腰を掴み直すと、また僅かに生まれた隙間を埋めるように叩きつけた。
「んぁっ」
 肉と肉がぶつかり合う音に、クラウドの声が混じる。ほとんど言葉になっていない声はまるで獣のそれのようで、理性などとっくの昔に押し流されているようだった。それはそうだろう、部屋に入ってもう何度やったか解らない。つながっているそこは最早どちらのものともわからない体液でぐずぐずになっているし、「そういうところ」らしく調度の中で一番整えられていたシーツにも、所々染みができている。避妊具なんてものは最初から使っていない、ずっとクラウドが飲み込んでいる。そんな相手の様子に、どこまで淫乱なんだお前はといういつもの台詞も今日ばかりは出る暇がなかった。
「も、あ、アッ、あン、あ、あっ」
「っふ、——く、やべ」
 クラウドの限界が近い。押さえ込んだ身体がびくびくと震えている。楔を包み込む肉がぬちぬちと締めつけてくるのを感じ、バレットはたまらず呻いた。何かに縋ろうとしているかのように伸ばされたクラウドの左手を追いかけ握りしめると、自分の身体で完全に押さえつける。寝台に寝そべった姿勢のまま、上から叩き付けるように容赦なく腰を動かした。
 安物のスプリングが軋む。
「ンぁ、あ、……おく、おくッ、んん——!!」
 最早クラウドの嬌声は悲鳴だった。堪えようともしなくなったバレットの欲に押しつぶされるがまま、蹂躙されるがまま、反抗もせずにただ必死で受け止めるだけだ。
「ふか、ァ、ばれっと、バレット、」
「ぐ、っクラウド、もっと、締めろ、……ほら、」
「ア——ひぁ、ああ、っく、やめ……!!」
 握りしめていた手を離し、バレットはクラウドの身体の下、熱を持つそれを握り込み無遠慮にしごき上げる。前後からの快感に、クラウドの思考は最早溶けているようだった。
 声が一段と高くなる。
 熱にかき混ぜられた頭の中で、ああ、もうそろそろだな、と漠然と考えた。
「ぅあ、あ、ッひ——ァ、あ……ッ!!」
「っぐ、出る、……ぐぅッ!!」
 反る背中を押さえ込むように、バレットはクラウドのうなじに歯を立てる。一気に締めつけられ、せり上がる快感の波を堪えることもなく、その胎の中に子種を注ぎ込む。出した後も内壁にすり込むように腰を動かし、全て出し切ってからようやく口を離すと、ずち、と引き抜いた。
「ぁ、……ッは、……あ、」
「……ふ、……はぁ、」
 口の中に広がる血の味を唾液とともに飲み込みながら、乱れた呼吸が落ち着くまで、バレットは未だわずかに震える身体を抱きしめていた。

***

 皆と取った宿に戻り、部屋着に着替えて寝台に腰掛けると、途端に心地の良い疲労が眠気を連れてやってきた。それはクラウドも同じだったようで、ベッドに横になった途端に全身から力が抜け、数分もしないうちに深い寝息が聞こえてくる。早いなおい、と顔を見遣れば、そこにあるのは先程までの疲労の色が濃い表情ではなく、穏やかな寝顔だ。
「布団かけろって」
 しょうがねえ奴、と最早聞こえていないであろう文句を言いながら、バレットもまた寝床に潜り込み布団を引き上げた。夜風に当たったせいか、抱え込んだ身体からは先程の熱はすっかり抜けている。
(……あったけえな)
 バレットの全身もまた、ゆっくりとではあるが眠気に包まれ始める。
 眠りに落ちる寸前、うなじに残った歯形が目に入った。クラウドの白い肌に赤黒く残っている情事の痕は、先程の激しい交わりを否応なく思い起こさせる。
(起きたら消してやらねえと)
 普段の服は首まで隠れるものとはいえ、少し動くと見えてしまう位置にある。こいつはこう見えて嘘をつくのが下手だから、余計な詮索を生むと面倒だ。
「——ん……」
 ふと思い立って軽く唇を寄せると、わずかに身体が動いた。だがそれだけで、再び穏やかな寝息が聞こえてくる。こういう時はかわいいのだが、と日中見せる態度を思い起こした途端、バレットはわずかに苦笑した。
「阿呆か、オレは」
 旅を続けて頭がおかしくなったんだろうか。それとも本格的に、こいつの毒気にでもやられたか。
 バレットははあやれやれと溜息を吐くと、ぬくもりを返す小柄な身体を抱きしめる。
 寝息が二つになるまでに、そうそう時間はかからなかった。

三度の飯が好き

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