リブクラ / pixiv
ワンルームの書斎めいた一室。簡素なベッドに、木の机と椅子、そして本棚と数冊の本。
それが彼に与えられた終の棲家だった。
「静かでいいところだ」
部屋に通された彼は一目見てそう言った。部屋を見渡すその瞳はきらきらと輝いていて、そわそわと本棚の本を引き出してみたり、机をさわったりしている。どうやらお世辞でも何でもなく、本当に気に入ってくれたらしい。
「カメラは? あるのか?」
「もちろん、用意してますよ。前に使っていたものと同じ機種です」
はい、と手に持っていた荷物の中からカメラを取り出し見せてやれば、とたんにぱあっとその表情が輝いた。ちょうだいと言わんばかりに差し出されたその手にカメラを乗せてやると、彼は慣れた手つきで電源を入れ、ファインダーを覗く。それが突然自分に向けられ、何か思う間もなくその白い指が動いた。
——ぱしゃり。
「ちょっと、いきなり撮らないでくださいよ」
「いいだろ、別に。記念すべき一枚目だ」
ほら、と見せられたその小さな画面には、間の抜けた自分の顔が映っている。普段こんなに情けない顔をしているのかと自分自身にあきれていると、「いつもそうだよ」と笑われた。
「仕事してるとき以外はこんな顔だ」
「こんな抜けてますかね……」
「抜けてないよ、優しい顔だ。俺は好き」
「またあなたって人はそうほいほいと」
「本当なんだからしょうがないだろ」
控えめにいっても美しい部類には居る外見の彼に、真正面からそんなことを言われたら赤面するのは当然のこと、何かしら悪い虫が付くかもしれないからやめなさいとさんざん言っているのに、本人はまるで聞く耳を持たない。何とか顔面を数秒で戻して、棚の上にカメラを置いていた彼に向き直る。
「足りないものや欲しい者があったら言ってください。できるだけ手配させます」
「わかった。でも、いいよ。俺はこれで十分」
「……そうですか」
「あ、でも、そうだな、いっこだけ」
すでに自分の居場所と定めたのか、ベッドにすとんと腰を落ち着かせた彼は、とてもきれいな笑顔を向けて言った。
「おやすみのキス、しにきてくれ」
「……ええ、いいですよ、喜んで」
「うん」
ありがとうという声を受けて、その小さな部屋を出る。
ドアが閉まるまで、クラウドはずっと、ばいばい、と手を振っていた。