女装ミッション:初日 / バレクラ / 文庫ページメーカー
「あたしの旦那、すごいでしょ」
街で一番なのよ、なんて言いながら、バレットの腕にしなだれかかる彼女は、どこからどう見ても女だった。何をどう真似したらこうなるのか、正直皆目見当もつかないが、バレットが抱いていた心配事のうち一つは綺麗に消えてなくなっていることは、目の前の男の顔から見て取れた。男は明らかに、クラウドに呑まれ、惚けている。化けの皮を剥いだその下は、男が考えているものとは正反対だというのに。
「せっかく旅行で来てるんだもの、遊んでいきたいわ」
「でもなあ奥さん、決まりがなあ」
「やあね、決まりなんて、破るものでしょ」
バレットの腕に絡みついた体温が離れ、男に遠慮なく、ただ触れるか触れないかぎりぎりの所まで近づく。男への目線はそのままに、絹に覆われた手がスリットを扇情的に掻き分けて露わにしたガーターベルトには、少なくはない額のギル札が挟まれていた。
「これじゃだめ?」
もはや魔性と言ってもいい。
ほとんど吐息だけの一言で、男は「しょうがねえなあ」という望み通りの言葉を口にした。