女装ミッション:初日の夜 / バレクラ / 文庫ページメーカー
部屋の扉を閉めた瞬間、それまでバレットの腕に自らの腕を絡めてぴたりと寄り添っていたクラウドは、ふらふらと離れてベッドに吸い寄せられていった。そしてそのまま、ぼふんと寝床へ突っ伏してしまう。
「おい、化粧」
落とせ、と声をかけたら、酷く憔悴した声が返ってきた。
「起きたらやる……」
「馬鹿、肌荒れちまうぞ。明日のことも考えろ」
「……う」
もぞ、ときらびやかな布の固まりが動いた。暫くして身体が起きたので、バレットは洗面所から化粧落としの容れ物を持ってきてその膝の上に置いてやる。
「ほら」
「……」
のろのろと手を動かすクラウドは、もはや完全に気力も体力も尽きているようだった。普段なら、しゃっきりしろモヤシやろう、なんて背中を叩いているところだが、今日の「仕事」の内容を考えるとこうなっているのもしかたがないと思えて、憚られてしまう。何しろ普段とは全く違う人間を演じ、慣れない靴や服を着て、しかもよりにもよってバレットの連れ合いのフリをしているのだ。消耗しないわけがなかった。
「……落とした」
なんとかメイクを落としきったクラウドだったが、どうやらそこで力尽きてしまったらしい。そのまま墜落しようとするクラウドの腕を掴んで慌てて止める。
「待て待て待てそのまま寝るな、服脱いでから寝ろ。シワんなるぞ」
起きろ起きろと軽く揺さぶったら、ぐったりと閉じられていた目蓋がわずかに持ち上がった。不機嫌そうに零れ出る魔晄の色がバレットを捉える。
「——ぬがして」
掠れた声が鼓膜を震わせた瞬間、バレットは自分でもわかるほどに動揺した。ぞ、と背中を上る寒気にも似た感覚に息が詰まり、喉が干上がる。
だがそれがまずかったらしい。バレットの脳を揺さぶったその一言を絞り出した直後、掴んだ身体からかくんと力が抜けた。あわてて支え直すがもう遅く、クラウドは既に意識を手放していた。
「おい、……ったく、何考えてんだ」
悪態を吐いたはいいものの、もうクラウドは起きないだろう。
脱がしてやるほかにはない。バレットはごくりと唾を飲むと、その身体に腕を回した。