女装ミッション:バレットさん頑張る / バレクラ / 文庫ページメーカー
上等の絹に包まれた両手が伸び、優しくバレットの頬を包んで引き寄せる。沸騰した頭でも、なぜかそればかりは煩わしいと振り払うことができずにされるがまま少し屈むと、穏やかなクラウドの表情がそこにあった。
「聞け」
バレットにしか聞こえない、ともすれば鼻が触れあいそうな距離でも周囲の声に紛れてしまいそうな声でクラウドは言った。それは先程までの、演じ、偽った声ではない、彼の声だった。
「相手は煽ってるだけだ。乗ったら思うツボだぞ」
「……」
「まあ、突っ走ってくれても構わないんだが、あんたを担いで帰るのは目立つし、疲れそうだからな」
ヒールだし、と続けるクラウドは全くもっていつも通りで、どうしてこいつはこんなに冷静なんだと腹が立った。だが、その静かな声に引きずられるようにしてバレットの昂ぶった気分も徐々に落ち着いていく。
それを見越しているのか、クラウドはただ淡々と、極力静かに言葉を続けた。
「それに、あんたが爆発したら、俺も、ディオが寄越してきた奴もまとめて吹っ飛ぶんだ。まずは落ち着け。落ち着いて叩きのめせ」
「……叩きのめすのは変わんねえのな」
「当然だ。——ようやく人語を喋ったな、あんた。できればそのまま人間でいてくれ」
「わかったよ、悪かった」
クラウドの指が、応えるように頬を優しく撫でていく。そして、一瞬だけ何かを躊躇うような表情を見せた後、「バレット」とまた名前を呼んだ。
「なん」
だ、という言葉は途中で柔らかいものに塞がれた。とっさのことで反応が遅れたがすぐに理解し、バレットはそのままクラウドの腰を抱き寄せ、自分からさらに深く口付ける。名残惜しげに見えるように、二、三度軽く啄むと、冷やかす周囲の声が耳に飛び込んできた。相手方の罵声も一緒に飛び込んで来はしたが、先程のように頭がすぐさま沸いてしまうようなことにはならなかった。
「ハッ、畜生、オレのかみさんは世界一だな」
「当然じゃない、あなたの女なんだから」
頑張って、という一言とともにクラウドの手が離れていく。その表情はすでに、一人の女のそれだった。