[2018/06/20]バレクラ(5)

女装ミッション:モブ視点 / バレクラ / 文庫ページメーカー

 園長が見つけてきた人材はまさに適材であったらしい。
 最初こそ危ぶんではいたものの、依頼した調査は予想以上に順調に進んでいる。さすがは素手で闘技場を勝ち抜いた男とその連れ合いだ。これはもしかするともしかして、決勝まで行ってくれるかもしれない。
「——やっぱり奥さん、しんどそうだねえ。大丈夫?」
 ただ、反動も想像以上だった。今夜の分のドレスとヒールを揃えて彼らが泊まっている部屋に届けに行ったところ、相手役を務める方はもう日も高いというのに寝台の中にいた。夜、あの怒号や罵声が飛び交う中を颯爽と歩き、言い寄る荒くれをあしらい、そして彼の旦那役を応援する様子はとても疲れているようには見えなかったのだが、疲労は溜まっているらしい。初日は「奥さんじゃない」とかなり冷たく反論されたが、それも聞こえているのかいないのか、それとも反論する体力もないのか、疲れ切った吐息が聞こえるだけだ。
「まあな。仕事ん時になりゃ起きるだろ」
 そしてこの旦那役も旦那役で、すでに体中生傷だらけである。さすがに大きいものや、動きに支障が出るものはそれとなく治しているようだが、包帯や湿布、絆創膏の数は前に比べて格段に増えていた。
「昨日も直前まで頭痛えって言ってて」
「や、それは心配だね……薬も持ってこようか? 経費で落ちるし」
「いや、いい。こいつ薬嫌いなんだよ、理由は知らねえけど。寝たらある程度治るから」
 だから寝かしてやってくれ、と彼は大きな湿布の貼られた顔で苦笑する。
「半分聞いてるし、残りの半分はオレが伝えるからよ」
「はいよ」
 いいのいいのと手を振ってやれば、布団からわずかに除いた半目と視線が合った。相も変わらず綺麗な色だが、初日や夜に見るような煌めきは今はない。ただ一回瞬きをして、「悪い」という絞り出すような声が聞こえてきた。
「仕事は、ちゃんとするから」
「無理して喋るな、ひでえ声だぞ」
 そんな二人を目の前にしながら、鞄の中から資料を出す。
 それにしてもまあ仲良くなったこと、なんていう呟きは敢えて取り出さずにおいた。

三度の飯が好き

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