女装ミッション:完了 / バレクラ / 文庫ページメーカー
「あんた以外と演技派なんだな」
「あ?」
「最後のあの時、本気で怒ってたように見えた」
「……演技じゃねえよ」
ん、とクラウドの顔がこちらを向いた。その表情はストレスの溜まる仕事から解放された、実に機嫌の良さそうな晴れやかな笑顔だ——と、解るようになってしまった自分に驚きながらも、先程の言葉を繰り返す。
「演技じゃねえよ。本気で怒ってたんだ」
「へえ」
「何だよ」
「いや、あんたからそんな言葉が聞けるとは思ってなかったから」
寝間着を着て寝床に潜り込むクラウドを追い、自分もまたベッドに入る。すでに同じベッドに入ることに対してはためらいもなくなっており、あっという間にいつもの体勢になったところで、抱えられたクラウドがまた笑った。
「あのとき、初めて俺のこと見ただろ。真正面から。今まで途中で目逸らしたのに」
「それは」
「あれ、少し嬉しかった。俺に本気になってくれた気がして。ああ、でも今日で終わりか、それはそれで寂しいな」
もう一緒に寝られなくなるのか、という呟きが脳を揺さぶる。
——だめだ、と思った瞬間身体が動いていた。
それまでゆるく抱きしめているだけだった身体を寝台に押しつけ覆い被さる。相手は一連の動きについて行けなかったのか、きょとんとした顔で見上げてくるだけだ。
「バレット? どうした?」
何かあったのかと聞く声には、困惑と気遣いの色こそあれ、嫌悪や恐怖といった色は全く滲んでいなかった。これから何をしようとしているのか、まるで思い至っていないようだ。
それが彼にとって悪いことなのか、それとも良いことなのかは、今のバレットには判断ができなかった。