星の獣 / セフィクラ / 文庫ページメーカー
寂しさを主食にしだしてから何年過ぎたか、もうクラウドは覚えていなかった。
夢の中で皆と会い、話し、懐かしい時間を過ごしている時は寂しいなんて思わないのだが、何かがあって星に起こされ目覚めるたび、反吐が出そうなくらい心が軋む。誰も来ないよう星に守られた洞の中で、空の防衛機構だった獣に抱えられる自分をみるたび、先ほどまで話していた柔らかな光に満たされた喫茶店には戻れないという事実が心を抉っていく。
「……おはよう」
ぐるぐるとまるで猫のように喉を鳴らし甘えてくるアルテマウェポンのその大きな顔を抱きしめてやると、クラウドは身体を起こす。どこからともなく、にじみ出るように聞こえてくるのはこの星そのものの声だった。こういった役割を押しつけられるようになってから聞こえ始めた声は、口調や声音こそ優しいものだが、言っている内容はかなり過激だ。
「——うるさいな、わかってるよ。やればいいんだろ」
寝起きで未だよく回らない口で吐き捨てて、クラウドはアルテマウェポンから優しく下ろしてもらう。
今回は死ねるのだろうか。
死んで星に還って皆に会えるのだろうか。
淡い期待を胸に抱きながら、星の力で服を編み、身に纏う。カオスの保持者であるヴィンセントが来ていないところからしてし、自分一人で片が付けられる程度のヌルい脅威なのだろうが、それでも期待せずにはいられない。
「行こうか。——はやくすませて、かえろう」
アルテマウェポンが頷き、再びクラウドを掬いあげて背に載せる。
洞から飛び出した星の獣は大空に舞い上がると、指し示された目的地へ風を切って駆けていった。
◆◆◆
久方振りの大地の感覚をじっくり踏みしめながら目的の場所へ向かう。前にちゃんと立ってから何百年経っているのだろうかとふと考えたが、あまりのくだらなさに自分で笑ってしまった。
時間などどうでもいいことだ。今ここにいること、それだけが意味のあることであり、それ以外は考慮すべき事ではない。
もうそろそろかと頭上を見上げる。するとほぼ予想通り、星の夜の色を帯びた巨大獣が遙か彼方から、少し遠くに見える洞の入り口に舞い降りてきた。
血の臭いが濃いところからして、おそらく「そう」なのだろう。彼は再び足に力を込める。
「待たせたな」
語りかけるように彼は言った。
「——迎えに来たぞ、我が半身」