復帰後よく落ちてるクラウドちゃん / バレクラ / 文庫ページメーカー
部屋について扉を開けたら、人が真ん中に落ちていた。
「……またかよ」
一瞬びっくりして息を止めたが、その堕ちている人間が見慣れた仲間であること、そしてこちらを向いている顔が安らかな寝顔であることにすぐに気づいた。だいぶ慣れっこだが心臓に悪いことはよしてくれなと言いながら、バレットはよっこいしょとその身体を抱え上げる。
「クラウド、ほら、寝るならちゃんと寝ろ」
「……んん」
「ベッドだよ、ベッド。落とさねえからしがみつくな、離せ」
なぜかバレットの服にしがみついて、下ろされるまいと抵抗するクラウドだったが、背中が柔らかい布団に触れた途端力が抜けた。今度は手探りで布団を見つけだすと、そのまま抱えて動かなくなる。つくづく思うが、訳が分からない生き物だ。
ミディールから戻ってこの方、たまに宿屋に泊まるとこれである。今まではとんとなかったというのに、ベッドに入れない、もしくはたどり着く前に寝てしまうのだ。体力が尽きたのかそれとも気力の方かはわからないが、兎に角ベッドまで保たない。
——初めて落ちていたのを見つけたときは、寝かせつつも慌ててミディールのドクターに電話をかけてしまった。
『病み上がりだし、体力が追っ付いてないんだろうね。心配することはないよ』
寝かしてあげなさいと電話の向こうでドクターは笑った。
『昼間も倒れたり、熱が出たりしたらうちにおいで』
今のところそんな様子はないから、とりあえず見守るだけにはしているが、心配であることには変わりない。
きっちり寝かした後、風呂場で酒場の匂いや汗を落として戻ってきてみれば、クラウドはなぜかまたベッドから落ちようとしていた。間際にあった身体を押し返して壁際までごろごろと転がすがやはり起きない。前までは、誰かが触ろうものならすっと起きていた。ちゃんと眠れているのかわからないほどに目覚めがよかった。
(……寝てなかったのかも知んねえな、これだと)
あのときのクラウドはどこか人間くささというものが希薄だった気がする。理由がわかった今だからこそ、そう思えているのかもしれないが。
「それに比べりゃ、今のがマシだな」
心臓に悪いのは程々にしてほしいが。
バレットはクラウドの布団をかけ直して、部屋の灯りを絞ってやる。少しだけ寝づらそうに寄っていた眉から力が抜け、年相応の寝顔になったことを見届けてから、自分もまた隣のベッドに潜り込んだ。
「おやすみ」
「……おやすみ……」
前までは絶対に言わなかった一言に、前までは絶対に返ってこなかった返事があったことに満足しながら、バレットはその一日を終えた。