後でクラウドちゃんが顔真っ赤にする / レノクラ / 文庫ページメーカー
「あれ、先輩、髪の毛かわいい」
唐突に後輩からそんなことを言われたレノは、内勤のあまりの退屈さに脳が麻痺していたためか、すぐに反応することができなかった。
「……あ?」
「彼女さんにやってもらったんですか」
外の自販機で買ってきたのだろう、紙パックのジュースをすするイリーナが、ここ、と自分の後頭部を指す。そこでやうやく、レノは彼女が髪の毛について話していること、そして手に伝わる後ろ髪の感覚がいつもと違うことに気付いた。
「……あいつ」
そういえば今日の朝は珍しくあのチョコボの機嫌が良く、「髪結ってやる」とか言い出したので好きにさせたのだ。ちょっと時間がかかってるなとは思ったが、まさかこういうことをしているとは思わなかった。
「へーいいですねー仲良さそうで」
「完全に棒読みじゃねえか」
「そんな堂々とのろけられたらさすがに棒にもなりますよ。先輩だってルード先輩がお弁当持ってきたとき同じ感じでしたよ」
「マジかよ、と」
「マジマジ」
あー、いいっすねーいいっすねーと半ば投げやりに言ったイリーナは、紙パックを握りつぶすとゴミ箱に放り込む。内勤はオフという共通認識が浸透してきたのかそれとも本当に暇なのか、それなりにまじめだったはずの彼女はさらに言葉を続けた。
「今度紹介してくださいよ」
「なんでだよと。誰が見せるか」
「えーいいじゃないですか。何恥ずかしがってるんですか」
唇を尖らせる後輩を適当にあしらいながらも、レノは煙草を咥えて火を点けながら、にやりと緩んでしまう口元を手で覆い隠す。
(おんなじこと考えやがって)
あのやろう、今日はたっぷりかわいがってやる。
にやにやと笑うレノの耳には、銀の狼が鈍く光を照り返していた。