ヒグマとオオカミ:獣の街 / バレクラ / 文庫ページメーカー
遠吠えが聞こえたのはテリトリーの見回りをしている時だった。長く尾を引くその声が、自分を呼んでいるものだと気が付いたバレットは、見回りを切り上げてその呼び声の方へと向かう。耳を頼りにいくつかの建物を抜け、少し小突いたら崩れかねないような階段をおっかなびっくり上って行った先でようやく、月に向かって吼える狼を見つけた。
「——おう、来たぜ。クラウド」
ひとくさり終わったあたりで声をかけると、狼の耳がぴくりと反応し、やがてすらりとした顔がバレットの方を向いた。海の色をそのまま写し取ったような瞳が月の光に煌き、眩しさに瞬きをした時にはもう、その狼はバレットと同じ二つ足になっていた。
「狩りか?」
「ああ。最近増えて来たから」
狼——クラウドは、眼下に広がる古い街並みに目をやる。そこにうごめいているのは、彼らとは異なる種族で、彼らに害なす者たちだ。名前があるのか、どんな種族だったのか、もう誰も知るものはいないが、とにかく邪魔で危ない存在であるというのが、このあたりに棲む者たちの共通の見解だった。
「ゆっくり昼寝も仕事もできない」
「わかった。オレもちょうど気になってたとこだ」
「助かる」
バレットとクラウドは、廃ビルを連れ立っておりていく。
建物の外に出た時には、二人の姿形はすでに、二頭の四つ足になっていた。