ダンスするリーブさんとクラウドちゃん / リブクラ / 文庫ページメーカー
「クラウドさん、私と踊っていただけますか」
「俺は踊れないよ。踊ったこともない」
「まあまあそうおっしゃらずに。そんな難しいことはしません」
リーブの手がクラウドの手を取り、古びたダンスホールの中央まで連れ出す。長い間手入れがされていないため、積もってしまった埃がふわりと舞い上がったが、それは差し込む光に照らされてまるで雪のようにも見えた。
「私がリードしますね」
「曲もないのに」
「そんなもんなくて良いんですよ。気分です、気分。あ、滑って転ばないように」
「あんたもな」
さあ、と促されてリーブの広い背中に手を回し、身体を密着させる。言われたとおりにステップを踏み、リーブの手や視線、声に導かれるがまま、フロアを舞う。確かにさほど複雑ではなく、簡単な動作の繰り返しだったため、クラウドはすぐに調子を掴んだ。そして自分でも意外なほど楽しかった。時折笑ってしまうほどには。
しばらく踊ったのち、二人の足が自然に止まる。
互いの身体に手を回したまま、クラウドとリーブはゆったりと揺れていた。曲などないが、二人のリズムは心臓の音までぴったりと重なり合っているように思えた。
にこにこと、心の底から嬉しそうなリーブの笑顔が上から降ってくる。
「クラウドさん、本当に初めてですか? お上手でしたよ」
「あんたの教え方がうまいんだ」
「あ、じゃあ私が教えますんで本格的にやりますか」
「それはいいな、楽しそうだ」
苦笑しながらもクラウドもまた、リーブの顔を見上げた。
すると彼はさきほどの笑顔はどこへやら、いつになく真剣な表情でクラウドを見つめていた。
「……嫌だとは、言わないんですね」
呟くようにリーブが言った。
その濃い色をした瞳が、クラウドを見て、クラウドだけを映している。それにどくんと心臓が跳ねた。
「嫌なわけない。あんたなのに」
その途端、クラウドの口から自然と言葉がこぼれ落ちた。
「——あんただから、」
あんただからいいんだ。
口をついて出たその一言にリーブの目が見開かれる。その唇がわずかに震えたが、吐息の代わりに紡ぎ出されたのは「クラウドさん」という熱を伴った一言だった。
リーブの大きな手のひらが頬に添えられた。だがクラウドは拒まずに目を瞑った。柔らかく、そしてあたたかい感触が唇に押しつけられ、呼吸が奪われる。再び二人が離れたときには、リーブはただクラウドだけを見ていた。
「クラウドさん、ボク、クラウドさんのことが好きです」
「俺も好きだ。どうしようもないくらい、あんたのことが好きだ」
クラウドの両目が熱を帯びる。
それが涙だと気づいたのは、リーブの指が優しく目尻に触れたときだった。