げんじゅうおうと!:エーテル味のキス / バレクラ / 文庫ページメーカー
朝目を覚ましたら、エーテルを飲むのが日課になった。
「……痛っ」
今日もまた頭痛で目を覚ましたクラウドは、寝起きで霞む目を擦りながら身体を起こす。自分をゆるく抱えていた逞しい腕からそっと抜けてベッドを下りると、隣のベッドにまとめて置いていた荷物を探る。そして目当ての瓶を見つけると、服も着ないままにフタを開け、一気に飲み干した。
「——ッ痛う……」
起き抜けの体に、冷たく苦い液体が良い意味でも悪い意味でも染み渡った。温度に反応して一際強くなった頭痛を堪えてしばらく、飲んだものが効いてきたのか、目覚めからこのかた頭に居座っていた頭痛がだんだんと和らいでいく。瓶の底に少し残った分も飲み切り、独特の苦味を舌で転がしていたら、不意に後ろから大きくて暖かいものに包み込まれた。
「おう、早えな」
どうやらバレットが起きてきたらしい。頬を寄せられ、まだ剃っていない髭が当たり擽ったかったが、ぬくもりが心地よくて無理やり剥がそうとは思わなかった。
「あんたも起きてきたのか」
「寒くてよぉ」
「それは悪かった」
クラウドは笑いながら、すぐ側にある深い色の瞳を見る。そのまま引き寄せられるかのように挨拶がわりの軽いキスをしたら、バレットの方から「苦っ」という悲鳴が上がった。
「何だ、エーテルかこれ」
「ああ。飲んでた、ごめん」
「……また頭痛くなったのか?」
バレットの声がわずかに険を帯びる。
「飲めば痛くなくなるから大丈夫。というか、痛くなくなった」
「前はそもそも痛くならなかったろうが。大丈夫じゃねえよ」
今日は寝とけとそのままずるずる後ろに引きずられ、手の中の瓶も取り上げられて先ほど出てきたばかりのベッドの中に押し込まれる。こういう時、父親ゆえの性質なのかどうかはよくわからないが、バレットはやたらと過保護になるのだ。俺はマリンじゃないしもう痛くない、だから寝なくても大丈夫だと言い張ったのだが、今回も頑として聞き入れられずに結局バレットの許可が出るまでそこにいろという無慈悲な宣告が下された。
「ご飯は」
「オレが持ってきてやる」
「ルートの打ち合わせ」
「そもそも今日出ねえよ」
「買い物……」
「一人で十分だ。だから寝てろ、いいな」
不満なら無理やりにでも、とバレットの両目が不穏な輝きを帯び出したので、クラウドは諸手を挙げて降参の意を示した。魔法まで使われたらそれこそ一日中寝てしまう。
「わかった、大人しくする」
「よし。傍には居るからな、何かあったら呼べよ」
大きな手でわしわしと頭を撫でられ、クラウドは再び目を瞑った。
次に目を開けた時には、頭痛は何処かに消えていた。