マシュマロリクエストの大人なリーブさん / リブクラ / 文庫ページメーカー
大人の男の人だ、と思う。
難しそうな書類を読み、眉を寄せ、たまにため息をつく。大きな手でサインした後秘書官に渡し、今度は端末のディスプレイを眺めて滑らかな手つきでキーボードをたたいては眉を寄せる。何かがうまくいかないのか、ため息をつくその様子さえサマになっていて、ついついじーっと見てしまう。特に今日は仕事用の眼鏡をかけていて、自分の心に素直になって言うなれば、とてもかっこよかった。
(……プレゼントしてよかった)
センスがあまりないと自覚している自分にしては大英断だ、とクラウドは数ヶ月前の自分を褒めた。家には仕事を持ち込まないようにしているせいでなかなかかけてくれないのだが、心底買ってよかったと思った。
「あー……どうしますこれ?」
にこにこしながらじっと見ていたら、不意にリーブがそう問いかけた。多分自分ではないだろうと秘書官を見遣れば、彼はクラウドにちらりと目線を寄越してから、「どれですか?」と応える。
「これって言われてもわかんないですよ」
「えっとこれです。メッセしましたけど、なんや討伐依頼来てまして、ウチのパラミリだとしんどそうだなって担当がね」
「あー……そうですね」
「どうしましょうね」
「どうしましょうもなにも、お願いしてもいいんじゃないですか。クラウドさんに」
瞬間、リーブの頬が少しあがった。お、と視線が吸い寄せられ、自分の名前に見せてくれたその喜色に思わず嬉しくなった。
またすぐに元の表情に戻ったリーブは、恐らくは資料を見ているのだろう、ディスプレイを見ながら顎に手をやる。
「でもこの前お願いしちゃいましたし」
「いけますよたぶん」
「……危なくないですかね?」
「危なくないですって。ねえクラウドさん」
「まあな」
「えーほんまですか? ……えぁ」
リーブの変わりようは劇的と言っても良かった。ちょっと気の抜けた声とは裏腹に、どういう仕組みかわからないが椅子に腰掛けたままの姿勢で少しだけ跳んだ。そのおかげで椅子がガタタンと喧しい音を立てたが、さすが局長用、こけたり壊れたりするような柔な作りにはなっていなかったらしい。
無事着地した後、ずれた眼鏡も直さずに、リーブは「うそぉ」と漏らした。
「なんでおるんですか」
「さっき入ってきた。仕事してたから静かにしてたんだ」
そう、なんだか集中しているようだったし、実際リーブは気づいていなかった。それに、真面目に仕事をしているときのリーブの顔はクラウドにとっては貴重なかっこいい顔だし、そのまま眺めていようと思って気配を消して入ったのだ。
するとリーブは我関せずといった顔をしていた秘書官にくってかかった。
「何で教えてくれなかったんですか」
「いやだって、クラウドさんに『しー』ってされたら」
「うらやましいこと山の如しやな!?」
よくわからないことを叫んだリーブはそのまま顔を覆うと、はー、と溜め息をつく。
「もー、……クラウドさん、驚かせないでくださいよ。心臓止まるかと思いましたよ」
「ごめん。お詫びにその仕事受けるよ、資料くれ」
「すみません、いつも」
「いいんだ。あんたのためだしな」
元から手伝えることがないかと思って覗きにきたのだ。
立ち上がりながらそう伝えたら、リーブは申し訳なさそうに眉を下げた。先程までの「大人の男」の風貌はどこへやら、すっかり人の良いおじさんの顔になっている。
「……またそういうこと言う」
「だめか」
「だめじゃないです……」
「ならよし。じゃあまた後で、ハニー」
「わかりましたよダーリン」
机越しに軽く屈んでキスをひとつ。
だが直後、「ここ仕事場ですけど」という秘書官の熱い指摘が飛んだ。