クラウドちゃんのおめめが好きなバッツ君 / バツクラ / 文庫ページメーカー
好奇心と興味の塊のような瞳に見つめられること三分、「もういいか」と言ったら「まだだめ」と言われた。
「……なんでだ……」
「面白いから」
「面白くないだろ」
「いや、面白いぞ。自信持てよ」
何の自信だ。
クラウドは溜め息をついたが特に抵抗はしなかった。こうなっている時のバッツは思いの外手強くて、あらゆる手を尽くして自分の好奇心を満たそうとしてくる。この前など「やっぱりお前の頭って面白いよな!」と少し失礼なことを言いながら頭をもさもさしてきたので振り払ったり振り払われたりしていたら、見ていたノクトに「何それ新手のダンスか?」と言われてしまった。おそらく今回も、振り払おうとしたらきっと何が何でも捕まえてくるだろう。
そして今日のバッツはどうも、クラウドの瞳にご執心のようだった。運良く見つけた空き部屋の中で太股の上に座ってきたときはまさかお誘いかとびっくりしたが、キスにしては結構遠慮もムードもない顔の挟まれ方をしたので全てを察した。そのまま好きにさせている。
「……たくさん見てるだろ、今まで」
確かに魔晄の瞳は珍しい、不思議な色かもしれないが、そこまで興味をあおるようなものでもない。そう言ったら、やわらかい灰色のようにも見える瞳の持ち主は「見てるけどもっと見たいの」と答えた。
「おまえの目ってさ、すごく綺麗なんだ」
「そうか」
「光の角度とかできらきら色が変わってさ」
色が変わるのはクラウドも自覚していた。細胞の作用のせいだ。戦闘後に高ぶっていたりとか、あの英雄が何かしらのちょっかいをかけてきたときは特に、瞳孔の形すら変わってしまっている――らしい。自分ではそんな余裕がないときに鏡を見ていられないから全て伝聞だが。
クラウドの複雑な心境は知ってか知らずか、バッツはにこにこ笑いながら、目の縁をついと撫でてくる。そのずいぶんと優しげな手つきに、背筋がそわりと仄かな悦びがはしった。
「底にあるのは多分同じ色なんだよ。でもおまえが笑ったり怒ったり泣いたりすると、上の色――って言っていいのかはわかんないけど、色合いが変わるんだ。空とか海みたいで、すっげえ好き」
「――っ」
「あっほらまた変わった!」
綺麗だなあ、なんて子供のようにはしゃいで覗き込んでくるバッツのその胸元を衝動のままに掴んでさらに自分から引き寄せると、「へ?」と間抜けな声を出した唇に自分のそれを押しつける。呆気にとられているのか抵抗がないのを良いことに、そのまま押し倒して存分に堪能してから離れると、バッツは目をぱちくりさせながらクラウドを見上げていた。
「えっ、なに、クラウド、えっ」
「あんたなんなんだ、ほんと、責任取れ」
「えっ!?」
「端的に言うと抱いてくれ」
「はっ!? いや抱けと言われたら喜んで抱くけど、なんだよなんかあった?」
とことんまで自分がしたことについては自覚がないらしい。バッツの服に手をかけたら、相手もまたクラウドの服を脱がしてきたが、やはりその顔には戸惑いが滲んでいる。
「俺も大好きだよ、あんたのそういうところ」
「クラウドほんとどうした?」
「どうもしない。全部あんたのせいだ」
脱いでしまった服を脇に放り捨てると、クラウドは胸を這う手を取り自分の頬に添えさせた。
「このばか」
「動きと台詞があってないぞ……」
「うるさい。今日は寝かさないからな」
きっぱりと宣言すると「お手柔らかに頼むよ」という苦笑が返ってきた。だがその目には、もう明らかに欲とわかる色がちらついている。
あんたも大概だぞ――なんて言葉は飲み込んで、クラウドは引き寄せられるがままバッツの上に身を伏せた。