あまこさんのネタ:クラウドちゃんが双子 / セフィ←クラ(弟)+ザッ←クラ(兄)/ 文庫ページメーカー
――死ねばいいのに。
端末の画面にぼそりと呟いてから、ほんの少しだけ刺してくる罪悪感をため息と混ぜ込んで吐き出した。薄暗い部屋の中でただひとつだけ光っていたその画面をロックして、少しだけ乱暴に机の上に放り投げる。
人付き合いの一環として始めたネットは煩わしいが大半だったが、それでも得られるものはあったから細々と続けていた。知り合いとの話のきっかけに困らないのは助かるし、世間に若干置いてきぼりを食らうことがある自分にとって、ただ眺めるだけで周りのことが飛び込んでくるのは実際都合がよかった。
それになにより、見たいものがちゃんとあったのだ。あったのに、それもさっきので台無しになった。
「……」
ごろんとうつ伏せになってクッションに顔を押しつける。ぎゅうと握ると、みちみちと縫い目が悲鳴をあげる。
――ただの何気ない動画だった。確か期間限定全サイズ五十ギルだからととても楽しそうに言っていた気がする。多分モラルの範囲で自分の最高記録に挑戦しようとしたのだろう、たくさんのおいしそうなポテトとそれを両手に持って笑う彼が映っていた。食えたかどうかはあとで報告しますとか言って。
ただ、そのあとに割り込んできた音に、それまで浮ついていた気持ちは一気に落ち込んだ。
彼のものではない笑い声。押し隠した、それでもマイクが拾ってしまったのだろうその声は、何度も何度も聞いたことがある声だった。そりゃあそうだ、自分とは遺伝上、何一つ違わない声なのだから。
撮っている人間がいることをすっかり失念していた。そしてその声と一緒に思い出した頃には、その動画はもう見たくないものになっていた。
「――あんた、ノックしろって何回も言ってるだろ」
どろどろに煮詰まった感情を苛立ちとして背中に感じた気配に叩きつければ、ふ、なんて人を食ったような声が聞こえてくる。
「随分と機嫌が悪いな。少しは愛想良くしたらどうだ」
「俺の機嫌なんてあんたには関係ない」
「おおかた余計なものでも見たんだろうが」
「だから関係ないって」
意地でも顔は上げないまま、まるで子供のような言葉で噛みつくと、のらりくらりと話を聞かない振りをしていた相手は、「いや、関係はある」と真面目くさった声で言った。
「そろそろ時間だ。久し振りに見せる顔が仏頂面で良いのか」
「……ああ、もう、わかったよ、くそ」
クラウドは観念して顔を上げる。確かにそろそろ時間だ。最近のうちでは長い方だった出張から、両親が帰ってくる。
「五分笑顔を保たせたら褒めてやろう」
「なに、そんなに保たないって思ってるのか? 楽勝だ」
さも当然のように肩に添えられた手をぺしんとはねのけると、彼らは連れ立って自分の部屋を出る。
誰もいなくなった部屋の中で、ぽつんと灯った端末が、ただ寂しく震えていた。