[2019/02/25]リブクラ

クラウドちゃんが大好きなリーブさん / リブクラ / 文庫ページメーカー

 クラウド・ストライフはその見た目に反して、セックスのこととなると酷く奥手だ。
 それに気づいたのは、そういうことをするような仲になってしばらく経ってからのことだった。だが、一度受け入れてしまえばあとは奔放に乱れてしまうと言うのも、同じくらいの頃に解ったことだった。
 とにかく、この関係は彼にとって心地の悪いものではないらしい。終わったらさっさと帰るでも、寝床を分けるでもなく、すぐ隣で穏やかな寝息を立てている。
 リーブにとって、この面お前で無防備に眠っている青年との関係は、予想以上に激しく動きつつある人生の中では一種の清涼剤のようなものでもあり、また麻薬のように中毒性のあるものでもあった。昔の自分からは考えられないほど、今のリーブはこの青年に——クラウドに執着してしまっている。仕事一筋で来たリーブにとっては、これが愛情と呼べるものであるのか、それとも単にお気に入りを手元に置きたいと思っているだけなのかという区別は正直なところついていない。それでもこの青年を大事にしたい、幸せにしてやりたいという気持ちには偽りはなかった。
 だから、クラウドがリーブとのこの関係を続けてくれているということはこの上なく嬉しいものだった。
(ちゃんと告白もできないようなおじさんなのに)
 年相応、いやそれよりもともすれば幼い寝顔をじっと見つめる。
 あの日は動揺していたこともあって、なぜか「抱いても良いですか」というかなり最低なことを言ってしまった。クラウドは一瞬驚いたあと(それも当然だ)、ほんの少しだけ顔を伏せて「いいよ」と答えてくれたのだ。
「はあ、もうあかんなあ」
 好きすぎてたまらん。
 意外なほど小柄な身体を抱きしめながら心の中に浮かんできた言葉をそのまま外に逃がした。なんだったらもう一回ぐらいはできそうなくらいに、目の前の身体に、存在に対して欲情している。おかしくなってしまいそうなぐらいだ。
 手が動くに任せて抱きしめた背中をさわさわ撫でていたら、ふと目の前の青年の顔が僅かに上気しているらしいことに気づいた。部屋の僅かな灯りではあるが、元が白いので目につきやすい。
「……たまらんなあ、一生一緒にいたいなあ」
「……」
「クラウドさんに会えてボク本当に幸せやわぁ」
「……リーブ、もういい、もういいから……」
 どうやら狸寝入りは長いこと続かなかったらしい。蚊の鳴くような声が聞こえたかと思ったら、もぞもぞと彼の手が動き、ついには真っ赤になってしまったらしい顔を覆い隠してしまう。
「あれっ起きてらしたんですか」
「わかって言ってたくせに、何言ってるんだ」
 もごもごと、普段はグローブに隠れ手見えない手の向こうからそんな抗議が聞こえてきた。
「いやあ全然解りませんでしたよ。ほんならそうと言ってくれれば」
「……うるさい」
「あれ、照れてます? いややわーボクの方が恥ずかしいのに」
 今度は、うー、と唸るような声が聞こえた。あまりいじめすぎると明日の朝まで拗ねてしまうと判断したリーブは、ここらで止めておきましょうかと笑うと、こつんと額をくっつける。熱い。
「ね、クラウドさん、お顔見せてください」
「いやだ。絶対今変な顔になってる」
「なってないですって、大丈夫ですから」
「なんでわかるんだ」
「クラウドさんがかわいいから」
「全然理由になってない……」
「いいからいいから」
 ほら、と優しく手に触れる。するとしばらくしてからやや躊躇いがちに、星の色を湛えた瞳がおずおずと現れた。
「全然変な顔じゃないですよ」
「……うー」
 軽く啄むようなキスを落としながら、リーブは目の前の愛しい存在に心からの言葉を囁く。
「クラウドさん、ボクとずっと一緒に居てくれますか」
「……ほんと、解ってて言ってるくせに」
 ずるい、という甘くかすれた声と共に、柔らかい感触がリーブの唇を一瞬だけ覆う。
「言われなくても一緒にいてやる」
 その言葉が最後まで終わらないうちに、リーブはクラウドの呼吸を奪っていた。

三度の飯が好き

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です