[2019/04/14]バレクラ

見張ってもらうクラウドちゃん / バレクラ / 文庫ページメーカー

 顎下を何かにくすぐられるような柔らかな感触に目を覚ますと、そこには金色の塊があった。
「……んぉ……?」
 なんだヒナチョコボでもいるのかと眉を寄せたが、すぐにここが牧場でも何でもない雪原の宿屋の一室であることを思い出した。そんな場所にヒナなどいるわけがない、それじゃあこの金色のもふもふは何なんだろうかと思った瞬間、その塊がわずかに向きを変えて、青く濡れた宝石をふたつのぞかせる。
「バレット」
 その宝石は、今にも泣き出しそうな声でバレットの名前を呼んだ。声音にわずかな周知が含まれているのに気づいたバレットは、彼の意図を察して身を起こす。
「……ああ、おお、そうか、トイレか?」
「……」
「待ってろ」
 ベッド脇の机に置いていた鍵を撮ると、再びクラウドに向き直る。
「もうちっと我慢できるな」
「……悪い」
 普段の態度とは裏腹に、クラウドはただ申し訳なさそうに顔を伏せる。
 その両手と足首には、重たく光る金属の塊があった。

 ——俺を見張っててほしい。
 そう告げられたのは、あの古代種の都でのことだ。憔悴しきった瞳をうつむかせて、クラウドはバレットにそう言った。何をするか解らないから、セフィロスがそばに居るとおかしくなるから、変なことをしないように見張っていてほしい、と。
 何度も「そういった」場面を目にしていたバレットは、むしろクラウドが自分から言い出してくれたことに驚いた反面、安心してもいた。クラウドだけではなく、バレット達も不安だったのだ。
 そして、クラウドはバレットに、日中だけではなく眠っている間も見張っていてほしいと言ってきた。あの日の夜、気がついたら寝床を抜け出していたから——と言って出してきたのがあの手錠と足枷だった。
「ほんとに良いのか?」
「あんたが良ければ。……その、一緒のベッドなんて嫌だろ、ごめん」
 そりゃ別に気にしてねえよ。こんなよう、……冷てぇのをよう」
 だが、クラウドは「良いんだ」と首を振った。それが罰だからと言いたげだった。

 それから毎晩、バレットはクラウドに手錠と足枷を着けている。
 ベッドが別だと何か起きた時に困るからという理由で寝床も一緒だが、それは全く苦にならなかった。テントで慣れていたし、クラウドの寝相が大人しかったのだ。寝入る前に見た姿勢と起きたときに見た姿勢が全く同じということもあったぐらいだ。むしろ自分の方が、先程のようにクラウドを抱え込んでいたりすることもある。かつてのミーナとの習慣がそうさせたのかもしれない。
 そしてそうなっていても、クラウド本人はまるで嫌がる素振りを見せなかった。自分から見張ってくれと言い出した手前、嫌だとは文句を付けられないのかもしれない。
 ぼんやりと手の中の鍵を見ていたら、洗面所から聞こえていた控えめな水音が止んだ。そして、まるで体重を感じさせない幽鬼のような足取りとともに、クラウドが戻ってくる。
「ごめん」
「おう、ほら」
 鍵を元のテーブルに置き隣に座らせると、最早慣れた手つきで手錠をはめる。拘束された両手で器用にベッドに横になったクラウドの、その思いのほか細い足首にも枷をはめてしまうと、バレットもまたベッドに横になった。布団を引き上げ、背中を向けて丸くなる身体を、一瞬迷ったのちにすっぽりと抱き込む。
「きつくねえか」
「……大丈夫」
 細くかすれた声には安堵が滲んでいた。
 ひやりと肌に触れた金属ごと温めるように、バレットは力が抜けた身体を緩やかにとじ込める。
 夜気に滲む寝息が二つになるまで、そう時間はかからなかった。

三度の飯が好き

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