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帝国if 施設にてモブと

 それはいつもサイズの合わない服を着ていた。
 都市近郊に比べて物資が潤沢ではないこの施設では、種族ごとの服を確保するのは難しい。時折やってくる同盟軍の使節や家族達にお願いしてなんとか賄っても、やはりある程度はどうしてもカバーできないところが出てくる。身体に対して明らかに大きめのものを――さすがにララフェル族にルガディン族の物を渡すようなことはしないが——使ってもらわざるを得ないときがたまにあるが、それはいつもいつもサイズの合わない物を着ていた。今日もそうだ、ハイランダー用のものなのだろうか、肩口とそこに残る傷跡が大きく見えてしまっている。だが、誰も何も言わないし、それ自身も何も言わない。ただ、レンガが剥き出しになった壁に背中を預けて座っているだけ。
 ——それはいつもサイズの合わない服を着ている。何も言わないし、何も感じないから、いつもいつも後回し。面会に来る家族もいないから、ちゃんとした服を着せてもらえたことなんて数えるほどしかないだろう。
「なのにどうして軍のお偉いさんがよく連れ出してるんですかね?」
 車椅子を押しながら頭に浮かんだ疑問をそのまま呟いたら、隣で一緒に歩いていた上司が「それはね」と答えてくれた。
「これは秘密なんだけど」
「秘密なのに言っちゃって良いんすか?」
「彼、結構重要な拠点を任されたりしていて、ちょっとした有名どころだったんだって。最終的には捕まったんだけど、彼の部隊はみんなどこかへ消えたんだ」
「言ったよこの人。……そんで消えたんですか? 死んだんじゃなく?」
「そう、消えた。司令部と周辺の街の住人ごと全部。見つかったのは帝国の研究者の死体と残骸、あとは彼だけ。それで焦った同盟軍が躍起になってるんだねえ」
 無傷の部隊が同盟軍の目をくぐり抜けて逃亡したなら、抗戦を続ける他の帝国軍に合流してもおかしくない。それどころか、内部に潜り込んで何らかの破壊活動を行う可能性もある。
「属州人はエオルゼアの人間達と変わらないし魔法も使えるから、潜り込まれたら見分けがつかない。それで何とかして情報引き出そうと思ったんでしょう。そしてやり過ぎた今も思ってる」
「……この状態から何か引き出そうとしてるんですか?」
 車椅子の振動に合わせてただ揺れる緑の頭を見下ろす。
 彼が何らかの意思を持って動き、話しているところを、自分は見たことがない。この施設に来た段階で彼は既にこうだったからだ。彼を保護した暁から渡された申し送りの書簡には、「自らの魂を焼いたため、外界への一切の反応ができなくなった」とあった。それが本当であるならば、この状態から何か引き出すのは一種の奇跡に近い。だが同盟軍は諦めていない。
「そう。身体は生きてる、魂が焦げただけ、それならなんとかなるはずだ、ってね」
「なんともならんでしょ……」
「それはわからないよ。最近はテンパードの治療法も見つかりつつあるとか言われてるから、こういう事例に応用するつもりなのかもしれない。でも——」
 上司はそこで言ったん言葉を切った。
「……でも、治ったところで、彼はまた同じ事をするんだろうね」
「……」
 何も返せないまま、曲がり角を曲がる。その先の玄関には不滅隊の制服と、横付けされたチョコボキャリッジが見えた。
「お疲れ様です」
「ご苦労さまです。いつもありがとうございます。申請したとおり、明日にはお返ししますので」
「はい。お待ちしてますね」
 車椅子が将校の手に渡り、チョコボキャリッジに引き上げられる。
 長く伸びた前髪から一瞬見えた隻眼は、どこも何も見ていなかった。

三度の飯が好き

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