バレクラ / pixiv
——始まりは最悪だった。すくなくとも、向こうにとっては。
どうしてそんなことをしたのかなんて今から考えても思い出せないが、むしゃくしゃしていたことはかろうじて覚えている。そして、当時アバランチに連れてこられたばかりのクラウドが、いつもの通り生意気なことを言ったものだから、かっと頭に血が上ってしまったのだ。
夜遅く、誰も来ないセブンスヘブンの地下で、バレットはクラウドを手酷く犯した。プライドを叩き折れればそれでよかった。あわよくば、その生意気な態度が少しなりとも従順になれば良いと思っていた。もちろん口止めとして、最中の写真を何枚か撮ってやった。最初の抵抗している時のものではなく、だらしなく溺れ始めた時のそれだ。プライドの高いクラウドのことだ、写真を他の奴らに見せるぞと脅せば、バレットに何をされたかなんて、他の誰かに言うわけもなかった。……態度の方は改善しなかったが。
それからというもの、バレットはことあるごとにクラウドに身体を要求した。クラウドにはもちろんのこと嫌がられたが、写真のことを口に出したら渋々従った。宿屋で部屋が取れる度に、配慮の欠片もない性行為を——道中で溜まったバレットの欲をぶつけた。
相手はソルジャーだ。何をしたって壊れないし、子供を身ごもる心配もない。それに、バレット自身がクラウドを抱く行為自体にハマっていた、というのもあった。具合がよかったし、戦闘でも日常でも冷静そのもので笑顔すらもあまり見せることがないクラウドが、バレットの身体の下でだらしなく喘いでいる様は、征服欲や支配欲といった感情を大いに煽って満たしてくれるのだ。
取った部屋の扉を閉めたその瞬間から、バレットはクラウドを捕まえて唇を重ねた。苦しそうに眉を寄せる顔を見るだけでも、バレットの雄を刺激するのには十分だった。毎回必ずそうやっていたら、いつしかクラウドの方からその手荒なキスを待つようになった。余計な時間をかけたくないとでもいうのだろうかそれとも違う理由からか、バレットが鍵を閉めるまで、すぐ側で待っているのだ。嫌悪とも、不安とも、困惑ともつかない曖昧な表情を浮かべながら。
***
ニブルヘイムで、神羅屋敷の探索を終えたその日のことだ。いつも通り、バレットはクラウドと同じ部屋になった。部屋の中に入り鍵を閉めて振り返ったが、クラウドは隣で待っていなかった。彼は、すでにベッドの上で力なく横たわっていた。右手の甲で目を覆い、完全に脱力しきっている。
「おい」
声をかけると、覆った手はそのままに、やけに気疲れした声が返ってきた。
「……頭、痛いんだ。今は、できれば、やりたくない……」
「らしくねえなおい。ソルジャー様が風邪でも引いたのかよ」
「……」
「おい」
クラウドの手が僅かに動いて、魔晄色の瞳がバレットをかすかにとらえた。だがそれきりだった。再び手が動いて、両目が覆われる。ランプの明かりすらも眩しいといわんばかりの様子は、どうも嘘ではないように見えた。
「……マジで具合悪いのか」
ベッドに近寄り、顔をのぞき込む。普段も白いクラウドの顔は、改めてみてみれば紙のように血の気が失せていた。どうやら本当に頭が痛いらしい。確かに、先ほどの食事もあまり手を着けていなかった気がすると、数十分前のことを思い出す。
「ちょっと手どけろ」
バレットはクラウドの手首をつかんで退かし、露わになった額に右手を当てた。伝わってくる温度はさほど高くない。むしろ低い方だ。風邪の線はなさそうだが、薬屋はこの時間開いていない。
となると——
「なあ、ちりょうのマテリアって」
「効かない……あれは、薬じゃないから……」
だから放っておくしかないと、こんな時まで的確な返事が返ってくるのはいささか腹が立ったが、相手がうずくまったことに気づいて、慌ててまたベッドの上にかがみ込んだ。
「おい、しっかりしろ」
「……」
「しょうがねえな……」
バレットはチッと舌打ちする。たしかにこの様子だと今日は無理だと判断したバレットは、窓際のカーテンを閉め、部屋の灯りを絞る。そして荷物から着替えを引っ張り出し、うずくまるクラウドを無理矢理仰向けにさせると、着ている服に手をかけた。
「やっ」
「しねえって。着替えさせてやるってんだよ。どうせしんどくて動けねえんだろ」
拒絶で突っ張った手から途端に力が抜けた。
こういう時にたやすく人の言うことを信用するのは、今までの旅の中ですでに解っていたことだが、今日のバレットはそれを逆手に取るつもりは毛頭無かった。宣言通りに服を脱がせたら、部屋着をまた頭から着せてやる。ズボンは自分で履けと手渡したら、ひどくゆっくりとした動きではあるが着てくれた。そのまま動かなくなったので、バレットも己のギミックアームを外して着替えると、自分のベッドに潜り込む。
だが、すぐに身体を起こすと、クラウドが寝ているベッドに移った。そして、痛みをこらえているのか僅かに震えている身体を抱き込んだ。
「薬が無ぇ時は、人肌が効くんだってよ」
腕の中に閉じこめてやった途端に強ばったのが解ったが、かつてマリンにそうしてやったように、ぽんぽんと腕を叩いて落ち着かせてやる。そして額を覆うように左手を添え、胸元へ頭を抱き寄せた。
「そこらで唸られちゃ気になってしょうがねえからな。……それだけだ」
固まった身体から力が抜けたのは、数分置いてからのことだった。不意に、傷ついたバレットの右腕に温もりがにじみ、ふと抱えた身体越しに見てみたら、クラウドの腕が触れていた。何を考えているのか、クラウドはたどたどしい手つきでバレットの右腕を抱え、そしてぬいぐるみをそうするかのように抱き寄せる。
「お前」
「……あったかい」
消え入りそうなほどの声だったが、ただそれだけ聞こえてきた。
苦しそうに震えていた吐息が寝息に変わったのは、それからすぐ後のことだった。