女装ミッション:ぱんさんのリプライにウッときた / バレクラ / 文庫ページメーカー
「それにしてもお前、どこで覚えてきたんだ。コルネオの時か?」
「違う。映画からもらってきた。……タイトルは覚えてないけど、あんたの故郷みたいな、炭坑か何かの映画」
「待て、待った、観たことあるぜ。確か赤い服の女が出てきた」
「そう、それ」
バレットの記憶の中にあるその女は、蓮っ葉めいてはいるが不思議と下品ではない、芯の通った実に好い女だった。男に媚びはするが誰に媚びるかは常に自分で決めてきたような、男を便りはすれど決して物にはならない、強かな女だ。有名な女優ではなかったがその独特の雰囲気が、彼女をより際立たせていた。題材も相まってか、バレットの故郷ではずいぶん流行った記憶がある。村に一つしかない映写機で、バーの壁に映して皆で観たものだ。
確かに今のクラウドは、その女によく似ていた。顔ではなくまとう雰囲気そのものが、荒くれ好みのいい女になっている。よくもまあここまで寄せたものだ。
だが、あれはずいぶんと古い映画のはずだ。
「あんな昔の、どこで観たんだ? だいぶ前のだぞ、オレが若い頃のだ」
すると、クラウドはどこか遠い目をして答えた。
「神羅に入ったばかりの頃に、先輩に連れて行かれた先でやってたんだ。そのときは大事な休みが一日潰れたって思ったんだが」
「観て良かったろ」
「ああ、今は先輩に感謝してるよ」
ルージュで艶やかに彩られた女の唇が笑った。また一瞬、バレットの背筋にあの得体の知れない感覚が這い上ってきたが、今回はすぐに静まった。
喧噪が前にある。教えてもらった目的の建物に着いたのだ。
バレットはそれまでの雑念を出し切るように息を吐いた。
「こっからが本番だ。オレから離れるんじゃねえぞ」
「ああ。……あんたこそ俺(あたし)を離すなよ」
クラウドの手に力が籠もる。
任せとけという言葉の代わりに、バレットはその身体をぐいと抱き寄せると、古ぼけた扉を押し開けた。