[2018/06/28]セフィクラ

二人の旅:迎えに来たセフィロスさん / セフィクラ / 文庫ページメーカー

「ああ、母を迎えにきてくださったんですね」
 姿を現した時、特に警戒も疑念も持たれずにいきなりそう言われた。星の方が手を回したのだろうと察し、特に会話もせず、蔦の絡んだ門扉をその人型をしたものに続いて潜る。
 建物はずいぶん古いようだった。ただ、放置されているような気配は感じない。丁寧に丁寧に使われているようで、壁や硝子、窓などにいくつもの補修の跡が残っている。
「……」
 ふと足元に何か柔らかいものが寄り添ってきたので思わず下を見たら、四つ足の獣がすりすりと体を押し付けてきていた。昔見た狼に酷似している獣だが、以前見かけたそれよりも、ずいぶんと大きく、そして賢しそうな顔をしている。
「珍しいですね。兄さんが自分からくっついていくのって、そうそうないんですよ」
「……そうなのか」
「ええ。——こちらです」
 招かれて入った先は、建物と植物が共存していると言ってもいい不思議な空間だった。外から入り込んできた植物や花はよほどのことがない限りそのままにしているのか、いたるところに自然が溢れている。きっとさまざまな連絡事項が書かれていたであろう壁のボードには美しい花が咲いており、所々においてあるビーカーやフラスコには蕾をつけた木の枝や球根が活けられている。その色とりどりの自然の中を、楽しそうに笑いながら子供達が走り回る様など、この建物を使っていた人間たちは予想もしていなかっただろう。
「すみません、騒がしくて」
「いや。あれが望んだのだろう」
「半分は。もう半分は、僕たちが母を生かすためにですが」
 案内役は建物の最も奥まった所にある扉の前で足を止める。言われずとも、その奥に何がいるのかは理解していた。
「——もう、今日で終わりでしょうね」
 どうぞ、と譲られ自ら扉を開けた先は、柔らかい光に満ちていた。
 それは部屋の真ん中、大きなクッションにもたれかかっていた。きっと手作りなのだろう、少しだけいびつな形をしたクッションを抱いてうとうとと船を漕いでいる。あの時から何も変わらない、ただ言うなれば少しだけ大人びて髪が伸びたその姿に、彼の息が詰まった。
 静かに扉を閉めゆっくりと近づくと、気配に気づいたのかその目がゆっくりと開く。
 煌めく星の色が彼を写し、数瞬経って大きく見開かれた。色の薄い唇が少しだけ開き、わなわなと震え、そして微かな音を出す。
「ぁ、……ぁあ、あ……」
 もはや言葉も忘れてしまったのだろう、意味のある音ではない。
 それでも伸ばされたを跪いて取ってやり、強く握りしめてやったら、ぼろぼろと透明な雫が白い頬を伝ったのが見えた。
「待たせたな。——迎えに来たぞ、クラウド」
 腕の中に閉じ込めてやると、一際大きな嗚咽が聞こえた。

三度の飯が好き

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