[2018/07/01]コルクラ

生気の薄いクラウドちゃんとコルネオさん / コルクラ / 文庫ページメーカー

「おまえは可哀想でかわいい奴だよ」
 どうやら本当に、彼は疲れているらしい。
 普段ならまず間違いなく気分を損ねて部屋を出ている——今回ならコルネオが追い出されている方だ——一言にも、ただ一瞬目線を寄越しただけで何も言われなかった。ベッドから起きようという素振りすら見せない。
「おまえからは血の臭いがプンプンする」
「……」
「それも他人の血だ。おまえを守って死んでいった奴らの血の臭いがまとわりついてる」
「……今時の豚は犬の真似もするんだな」
「ほひ! 職業柄さね、俺の鼻は」
 死体のような犬は、それにもただ溜息を落とすだけだった。
「大事にされたんだろ、おまえ? かわいそうになあ」
「それであんたは、その可哀想な俺のところにわざわざ来て、何をしたいんだ」
 ここで初めて、彼が身体がごとコルネオの方を向いた。
 昏い目をしている、とコルネオは思った。普段の彼からは想像もつかないほど深く昏い。落ち込んでいるとかそういう生やさしい表現では済まされない、何か全く別のものにでも中身をすり替えられたかと錯覚するほどには、その犬は生気をなくしていた。
「ほひ! そんなもん、見てるだけで楽しいからに決まってるだろうが! おおそうだ、物足りないんだったら抱いてやろうか? ん?」
「変態」
「ほひ~! いいの~いいの~オカズにしちゃ」
「でもそれもいいかもな」
「う!?」
 コルネオは割り込んできた相手の一言に思わず咽せた。
 本当に、目の前の人間はコルネオを毛嫌いしている(という割には頻繁に仕事を頼んでくる)男なのだろうか。
 まじまじと見てしまったクラウド・ストライフの顔は、ともすれば彼の家族にすらも見せたことのないような笑顔をコルネオに晒していた。
「いやちょっとまってクラウドちゃんそれ本気? 本気?」
「俺があんたに冗談を言ったことがあるか? ……ああ、別に切り落としたり、噛み千切ったりするような真似はしない」
「いやおまえ、おまえがそういうコトするときはそういうことだろ」
「今まではな。今から変えた」
 何もかもを投げ捨てたような青い瞳がコルネオを捉える。
「抱くか? 俺を。前から抱きたかったんだろ」
 その目は嘘を吐いていない。クラウドは本当に、コルネオに抱かれても良いと思っている。その何もかも諦めた様は、今まで見てきたどんなクラウドよりも退廃的で、そして雄の本能を刺激するものだった。

三度の飯が好き

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