オペオムバレットさん参戦記念 / バレクラ / 文庫ページメーカー
バレットの手を振り払ったクラウドは、信じられないという顔で彼を見ていた。その色素の薄く、形の良い唇が紡いだ言葉は、「ふざけるな」という一言だった。
「なんのつもりなんだ、あんた」
「なんのつもりだって、お前、そりゃあすることするつもりに決まってんだろ」
だって今まで何回も、という言葉はクラウドの「いい加減にしてくれ」という怒りすら滲んだ溜息に遮られた。しかし、苛立ちを隠しもせず首を振るクラウドは、怒っているようでいて半ば混乱しているようにも見えた。旅の途中何度も見てきたバレットにとっては手に取るように解る。そして、こういった時は無理に心をこじ開けない方が良いということも。
バレットはクラウドから離れ反対側のベッドに腰掛けると、極力穏やかに言った。
「わかった、もうしねえ。悪かった。ただ一つだけ聞かせちゃくれねえか」
「……何だ」
「お前、『忘れてる』ってこと自体には心当たりはあるんだな?」
クラウドがはっと顔を上げた。しかし、すぐに目を伏せて黙ってしまう。それでも、先を促さず根気強く待っていたら、やがて「ある」という蚊の鳴くような声が聞こえてきた。
「記憶がゆがめられた状態で喚ばれているというのは聞いたし、光を集めれば本来の記憶が戻るとも聞いた。……取り戻した奴もいる」
「そうか。そんならいい」
「いい……のか」
「何でお前が聞くんだよ」
バレットはそのすっとぼけた反応に思わず笑ってしまった。記憶がゆがめられているとはいえ、やはりクラウド自身の性質は変わっていないらしい。確かに自分とのことを忘れていたのはショックではあるが、再び他人に好き勝手弄られて自分を見失うような、最悪の事態にはなってはいないようだ。それが確認できただけでも御の字である。
バレットはふー、と安堵の溜息を漏らすと、よっこいせと立ち上がった。
「ちっと部屋変えてもらってくるわ」
「え」
「え、ってお前、さっきお前を抱こうとしたんだぜオレは。一緒にいたくねえだろ」
「あんた、それでいいのか」
「だからなんでお前が聞くんだって。——ま、そりゃ一応オレの記憶じゃ好きモン同士だったからな。正直なところ寂しくねえったら嘘になるが、我慢するさ」
クラウドはベッドに腰掛けたまま、バレットをじっと見つめていた。やがて、それまでこわばっていた顔が少しばかり柔らかくなる。
「……あんた、変わったな」
「そうかあ? どんな風に」
「優しくなった」
「まあな、お前さんの恋人だからな」
「それはまだ信じられないが、……その、俺が嫌だっていったら何もしないんだろ」
「ああ」
ここで初めて、クラウドは笑った。
「ここにいろよ」