コル将軍の朝ご飯 力作編 / コルクラ / 文庫ページメーカー
「……ごはんは?」
寝起きの居候の第一声がそれだった。
普通の人間なら、おそらくそこでイライラが溜まっていただろう。だがコルはもう、このたまに斜め上の意味で人智を越えた発言をする配達屋に慣れているので、特に腹も立てず苛立ちもすることなく、淡々と答えた。
「目の前にあるが」
だが、配達屋は寝起きの目のまま、首をかしげただけだった。
「……??」
「よく見ろ」
起きたばかりだからかそうではないのか、どうやら配達屋は目の前の朝食が見えていないらしい。一応皿の方向は見ているのだが、眉根を寄せている。
「……どこ?」
「皿は見えているな」
「みえてる」
「その上に乗っている」
「……これ、食べ物なのか?」
まだ言うか、とコルは舌打ちした。
確かに今朝の食事は、ちょっと気分転換をしようと思ってめったに作らないような見栄えのものを作ってみたが、ここまで言われるような代物ではないはずだ。
コルは実力行使に出ることにした。彩り豊かに、しかしきっちりときめ細かいデザインを施した寿司を箸でつまむ。そして配達屋の顎をひっつかむと、「ほら」と遠慮も何もなく開いた口の中に突っ込んだ。もはや給餌である。
最初は目を白させていた彼だったが、やがて口の中に突っ込まれたそれが食物であると気づいたのか、もぐもぐと自分で口を動かし始めた。一噛みするごとにそれまで死んだ狐の目だった両目が、みるみるうちに生気を取り戻していく。
「――!」
「食い物だろう」
「——!!」
「何か言ったらどうだ。……おっと、すまん」
コルは掴んだままだったクラウドの顎を離してやる。すると、ゴクンとその不健康そうな色をした喉が動いたあと、すぐさま「おいしい」という感想が飛び出してきた。
「何がどうおいしいのかよくわからないけどこれはおいしい」
「……貧相だな……」
「? 豊満なつもりだが、足りないか」
「身体の話はしていない。味覚と語彙の話をしている」
とにかくさっさと食べなさいと言うと、クラウドはわかったと素直に返事をし、えらくご機嫌な様子でコルの力作を食べ始める。
結構いけるようだし今度部下にも出してやるか、と心に決めながら、コルは尻尾を振らんばかりの勢いでおかわりを要求してくる犬の手を情け容赦なくはたき落とした。