あまこさんのツイートにぐっときたパロ / セフィクラ / 文庫ページメーカー
——是なるは人のなりをして人に非ず、人を殺めし獣なれば。
掠れた文字は辛うじてそう解析できた。ライブラリに情報があったことを感謝しながら、目の前のその巨大な「遺物」を見上げる。
この世界にただ一つ残された未踏領域の中心部、探索の末に至った地点にはその遺物がただ在った。未踏領域は大概にして、触れてはならないもの、触れられぬもの、まつろわぬものを孕んでいることが多々あるが、そのすべてを刈り取った後の最後に残された場所がこの北の果てだ。
数千年、ともすれば万を数えるほど昔にできた星の傷は未だに癒えず、雪と氷に閉ざされた過酷な環境だった。技術が発達してもなおそこに潜るのは至難の業で、纏まった人員を送れたのは今回が初めてだという。
ただ、その人員も長い探索の間に脱落していった。滑り落ちたもの、食われたもの、姿がいつの間にか消えていたもの。もしかすると自分も、そのロストの中に含まれているかもしれない。気がつけばそこにただ一人彼は立ち、それを見ていた。
それは一本の長い棒に磔にされた人のようだった。穏やかに、ただ眠るように目を閉じているその頭や、だらりと力の抜けた体はまさしく人の青年だ。だが、それが打ち付けられている万年氷には、ちょうどそれの背中のあたりからぶちまけられたかのように、どす黒いものが広がり染みて下へと垂れていた。それだけではなく、彼が立っているその床の大部分に、そのどす黒いものがところどころに広がっていた。
きっと血なのだろう、と彼は思った。数千年の単位で封じられていた場所だが、ここは何が起きてもおかしくない領域だ。残っていても別段不思議ではない。恐らくはここで大量の血が流される何かがあったのだろう。そして、この血の主はこの遺物だ。そばの床に書き殴られた文言、そして胸に突き立てられた棒——刀が暗に示している。
「——ッ」
途端、既視感が脳を灼いた。
目が離せない。それが刀に身を貫かれたものだと認識した途端、胸をかきむしられるような、目の前のもの諸共にこの場所も自分もすべて壊してしまいたくなるような無茶苦茶な感情がどっと押し寄せた。身を突き動かすほどの衝動は、彼にその柄へ手を伸ばすようにと囁きかけた。規則も手順も遙か彼方に霞んで消え、残ったのはただ目の前で何もかもを受け止め眠るそれを、その目を、ただこちらへ向けて悲嘆の色に染め上げてやりたいという欲だった。
いまだかつて感じたことのなかった本能が軋む。
震える手が柄に触れる。
動きを止めたのはただ一瞬だった。
まるで、己の手から象ったかと思うほど、その柄はあっさりと彼の手のひらを迎えた。どう力を入れればいいのか、どう動かせばこれが抜けるのか、考えずともよかった。