合体剣をしみじみするバッツ君 / バツクラ / 文庫ページメーカー
彼は武器を新調したらしい。
服や雰囲気もそうだが、得物まで変えてしまったとはよほどの何かがあったに違いない。そう言ったら、新調した剣を丁寧に分解し手入れをしていたクラウドは「まあな」と答えた。
「あったと言えばあった」
「話してくれたりは?」
「うーん……」
「嫌ならいいけど」
ちょっと見せて、と短いものを一本借りつつ相手の様子をうかがうと、当のクラウドは至って普通の表情で「違う」と首を振る。
「長くなるし、うまくまとめられるかわからない」
「そっちか。でも嫌なことじゃないんだな、そんならよかった」
ほい、と見ていた一本を返し、また次の一本を借りる。可動範囲や仕組みまでじっくり観察していたら、「あんたなあ」と笑い混じりの声が聞こえた。
「それ全部トレースするつもりなのか」
「うん? まあなー、面白くて。分解して二刀流とかできるんだろ」
「うん」
「すごいじゃん。そういうのおれ好き」
あまり表だってやってはくれないものの、それでもイミテーション相手の戦闘で何度か見た記憶がある。滑らかに分離した剣を持ち替え、流れるように二刀で斬り伏せる様は圧巻で、まるで一分の隙もない剣舞を見ているかのようだった。こういった、使い方の組み合わせが無限にあるような、探求しがいのある便利なものにバッツは目がない。
「仕組みも面白いし、手数も多くなりそうじゃん」
「まあな」
「それにさ、おれクラウドのことなら全部知ってたいし」
はい次、と持っていた剣を返してさらに一本を催促する。だが、いつまで経ってもその手には何も乗らないままだった。あれ、と首をかしげて見てみれば、クラウドはなぜか黙りこくってうつむいてしまっていた。
「へ? あれ? クラウド大丈夫か? 腹でも痛いのか?」
「……ばかやろう」
「は!? なんで!?」
いったい何が気に障ったのか、クラウドはまるで身に覚えのない罵倒を消え入りそうな言葉で呟くと、もう手入れは終わりだと合体剣を回収してしまう。何か失礼なことを言ったかなあとそっぽを向いたクラウドを後ろから見ていたら、その耳がやけに真っ赤になっていることに気づいた。確かにクラウドは照れたらああなるが、はて、そんな照れさせるようなことは全くした覚えがない。
「え、クラウドなんで照れんだ? おれ何か」
言ったか、と全部言ってしまう前に自分でも数瞬前の発言を思い出してしまった。
「……あぅ」
変な声を出して固まらざるを得なくなったバッツに、クラウドは目線だけで振り向くと呆れの色を如実に表しながら言う。
「気づかないで言ってたのか、あんた」
「気づかないで言ってました……無意識で……」
バッツは自分の失言——いや、失言というわけでもないのだが——を思い出して縮こまるしかない。そう、まれにこういうことをやってしまうのだ。結果慣れない言葉に照れたクラウドが、照れ隠しで機嫌を悪くしてしまう。
今回もまた照れて背中を向けてしまった彼は、ただ黙々と合体剣を組み合わせながらぼそぼそと背中越しに小言を言ってきた。
「びっくりするから、もうちょっと予告してほしい」
「はい……」
「せめて心の準備はさせてくれ」
「はい……すんません……」
「……言われるのは別に、嫌じゃないから」
「えっ」
「休憩したな、次行くぞ」
「えっちょっと! 待った!! 今のもう一回! なあ!!」
思いも寄らないあちらからの不意打ちに慌てて伸ばした手は空を掻いた。掴むことも引き寄せることもできないまま、ニットの背中は逃げるように立ち上がってしまう。
「なあってば!! 頼むよ!!」
「嫌だね」
「もー!!」
急いで追いかけリクエストしてはみたものの、結局そのリクエストには応えてもらえなかった。