鼻が利くクラウドちゃん / リブクラ / 文庫ページメーカー
「なんだ、あんた、浮気でもしてきたか?」
珍しく舞い込んできた仄暗い仕事を終えて帰宅したリーブを、出迎えてくれたクラウドの第一声がそれだった。
腕の中に閉じ込めて思いっきり抱きしめたその一瞬後、すん、と鼻を動かして端的な言葉を刺して来られたので、一瞬何を言われたのか理解できなかった。だが、すぐさま思考を取り戻すと、リーブはにこりと笑ってみせる。
「してないですよ、そんな。クラウドさんがいるのに」
「それならいい」
「優しいですねえ」
「信じてるからな」
バスローブ一枚という実にそそられる出で立ちのクラウドに、思わずごくりと喉を慣らしてしまったリーブは、かぶっていた帽子をコート掛けにかけつつ愛しい人の温もりを全身で味わった。
「じゃあ、どうしてまた浮気だなんて言ったんですか?」
じゃれつきながら上着を脱がしてくるクラウドをさりげなく寝室へエスコートしながら問う。すると、背広に手をかけていたクラウドは、男にしては匂い立つほどの妖艶さでにやりと笑った。
「においが違った」
「匂い」
「うん。いつもと違った。何が違うのかわからないけど」
「鼻が利きますねえ」
「あんたにしつけてもらったからな」
それとこれとは違うと思いますけど、とリーブは笑いながら背後のベッドに優しくクラウドを押し倒す。シャワーを浴びたばかりなのか、ほんの少しだけ湿った髪からは石鹸のいいにおいがした。思い切り息を吸い込んでみせたら、くすぐったそうな笑い声が聞こえる。
「こら、ちょっと、あんたのほうが犬みたいだぞ」
「首輪でもつけましょうか」
「そりゃいい。リードつないで散歩しよう。そしたら浮気もしないだろ」
「だから浮気じゃないですって」
「知ってるよ」
くすくす笑うクラウドと鼻をふれあわせキスを催促すると、鼻の利く彼はすぐに主人の意図したところを汲んでくれた。二回、三回とふれあう度、後ろに手が回りまるで縋るような声が漏れる。舌を出してと言うまでもなく差し出される舌をねぶりながら、リーブは己の前をくつろがせて、クラウドの軽く羽織っただけのローブを脱がしていく。
「待てはナシですよ」
「それはこっちの台詞だ」
わんわん、なんて可愛らしいことを言って腰を擦りつけてくるクラウドに、リーブはただ貪欲に食らいついた。