暇さえあればえっちするNTの二人 / バツクラ / 文庫ページメーカー
それぞれの世界から呼び出されたタイミングがまるで違うというのは、クラウドの話から理解していた。自分などはそれほど間を置かずに呼び出されたのに、中には数年、数百年経った状態で呼び出されている例もあるらしい。
「そういうことすんなら、せめてもうちょっと経ってからにしてほしかったなあ」
なんとか行き着いた世界の欠片で偶然見つけた、屋根と扉と壁のある寝床でごろごろ寝っ転がりながらぼそりと不満を漏らす。
あの妙なタイミングでこの世界に来てしまったせいで、仲間達がどこかに飛ばされてしまったのかと非常に焦ったし、その中でエクスデスと一騎打ちする羽目になった側としては、一言どころではなく二言三言は追加で小言を言いたいくらいだ。
「考えが有ったんだろう」
その不平に応えたのは、すぐそばでベッドに腰掛けわしわしと頭を拭いているクラウドだった。風呂上がりでいつものニットではなく、この家に置いてあった適当なシャツを着ている——が、少しサイズが大きいようだ。少しだけ首元が広い。
「気を引き締めてる時のあんたを喚ぼうって思ったんだろ。……多分」
「なんだよ多分って」
「マーテリアだからなあ……」
しみじみと呟かれたその一言から漂う雰囲気からして、どうも相当に彼らを喚んだ女神は頼りないらしい。女神の拠点に行ったところで大丈夫なんだろうかという不安を抱えながらも、バッツはさっさと話題を変えた。
「おまえは何年経ってたんだっけ」
「俺か?」
あらかた乾かして満足したのか、クラウドは近くの椅子の背もたれに使っていたタオルを引っかける。
「二年、いや三年か。平和に仕事してたら喚ばれた」
「配達屋だったっけ」
「そう」
「チョコボ?」
「も、使ったりする」
「ふーん」
おいでと腕を広げると、石鹸の匂いがする身体は素直に飛び込んできた。甘えているつもりなのか、結構強めにすりすりと頭をすりつけてくる。いつもよりもぐんと手触りのよい髪を撫でてぎゅっと抱きしめてやると、安心したかのように力が抜けるのが解った。
「三年か」
「うん」
「だいぶ経ったなあ。そりゃあこんなやらしい身体になるわけだよ」
背中に回した手をするりと動かし、背骨をなぞって程よく締まった尻へ這わせると、途端に腕の中の身体がくすぐったそうにもぞもぞと動く。
「おい、ちょっと」
「前はもう少し細かったよな。こんなに掴めなかった」
「っん」
指を埋め、割開くように尻の肉を掴むと、そこで初めてクラウドの声が艶を帯びる。悩ましげに寄せられた眉間に唇を寄せて、次いで瞼や鼻、頬を啄んだあと誘うように薄く開いた唇を深く塞げば、丁寧に躾けてやった身体は簡単に熱を孕んだ。
「もう、……シャワー浴びたのに」
「明日の朝でいいだろ、そんなのはさ」
恥ずかしそうに顔を覆うクラウドを組み敷くと、薄いシャツの下から手を滑り込ませる。目立った抵抗も拒否もないことを見取って、遠慮などしないと言わんばかりに一気に脱がしていく。
「こんなことできるのも、一緒に居られるうちだぜ」
皆と合流したら、おちおちこういうこともできなくなっちまう——ほんのり朱く色づいた耳にそう囁いてから、己の言葉に思いがけず含まれてしまったもう一つの意味に気づいた。
この闘争がどんな形であれ終わったとして、次はいつ来られるのか、そもそも次があるのか。そして次があるとしたら、どれだけ隔たりがあるのか、バッツにはまるで想像がつかない。ただ、今以上にクラウドが遠くなっていることは確かだ。
クラウドにとっての「今」は、前の闘争から三年後だと言った。ならば次は何年後になるのだろう。心変わりなどまるで心配はしていないが、それでも、どんどん隔たっていくかもしれないこの不安は耐えがたい。
——時間は限られている。神々にとっては時間の概念など存在しないに等しいから、そんなことは気にしないのかもしれないが、バッツ達人間はそうはいかない。
「バッツ」
彼の胸中の焦りを感じ取ったのか、それまで何かを耐えるような実にそそられる表情をしていたクラウドが、不意にバッツの両頬に手を添えてきた。
「そんなに急くな。俺は逃げない」
「……クラウド」
不思議な色をした瞳が笑う。
「あんたが満足するまでそばにいてやる。だからそんな顔するな」
引き寄せられるがまま唇を重ねると、まるでそれが合図であったかのようにひたすらに互いを求め合う。
今しかないかもしれないし、そうでないかもしれない。だがこの瞬間だけは、クラウドは確かにバッツの目の前にいてくれるのだ。
「クラウド、クラウド、すきだ」
譫言のように口からこぼれ出た言葉に、熱に浮かされる瞳がまた笑った。
思うがままに貪り合った二人が眠りについたのは、窓から見える空がうっすらと白み始めた頃だった。