ご飯食べる二人 / バレクラ / 文庫ページメーカー
宇宙には、光すら吸い込む黒い穴があるという。
もしかするとこいつの腹の中にはその小さいのが入ってるんじゃないのか——バレットはふと頭に沸いたそんなバカな疑問を慌てて打ち消した。そして、その指が示す方にあった皿を取ってやる。
「ほら」
「ありがとう」
指の主——クラウドは素直に礼を言うと、盛りだくさんの肉料理が乗ったそれを受け取り、三分の一ほど自分の皿に取り分ける。それでも相当な量なのだが、全く臆することなく淡々とナイフで切り分けると、きらきらと目を輝かせながら口の中に運んでいく。しかもその周りには、からになった皿やらまだ食べているらしい皿やらがあり、全く持って食欲は衰えていないことが伺えた。
「……いったいどこに入ってんだ」
酒のグラスを傾けながらぼそりと呟いたら、もぐもぐと咀嚼していたクラウドがこちらを向いた。どうやら聞こえていたらしい。
「どこって、胃じゃないのか」
「まあな、そりゃそうなんだけどな」
「もう酔ったか?」
「まだほろ酔いだよ」
いいから食えと促すと、またクラウドは目の前の料理に取りかかった。さっき取り分けたばかりの肉の塊はいつの間にか小さくなっているが、その手は鈍ることなく、淡々とその口の中へ肉を運んでいく。ドカドカと食うような所作ではないから一見大人しいが、よくよく見てみると恐ろしい量をすさまじい速度で平らげているから、目を離した隙には皿が空、と言うこともまれにある。
(少し前までは食えなかったのにな)
クラウドの頬に付いていたソースを指で拭ってやりながら、バレットは数日前のことを思い返す。
——あのときのクラウドは、自分の意志で食べようとした食事は雀の餌ほどもなかった。ティファやバレットに口の中へスプーンを入れられることがほとんどで、それでも食べないときは喉にチューブを通してどろどろに溶かしたものを流し込んだ。体調が悪いときは吐き戻しさえしたから、見る見るうちに肉が削げていった。
それが今はこうだ。
「うめえか」
「おいしい」
「そうか。そんならよかった」
ソースのついた指を舐めながらそう言ったら、クラウドはきょとんとした顔をした。
「……あんた今日やたら優しいな」
「別にいいだろうがよ。……食わねえならオレが食っちまうぞ」
「待った、まだ少し」
「はいはい」
そっちの皿くれと差し出された手に、バレットはまた違う料理の皿を渡してやる。今度は白身魚のオイル蒸しらしい。それもまたさっきの肉と同じように、まるで待ちきれないと言わんばかりの顔で受け取る。
「……うん、ま、たくさん食えよ」
「なんだよ、やっぱり変だぞあんた」
「うるせえな酔ったんだよ。さっさと食え」
クラウドは怪訝そうな顔で柔らかく煮られた身にフォークを埋め、また口の中へ放り込む。それを見ながらバレットは、思わず緩む口元を隠すようにしてまたグラスを傾ける。
卓の上の料理がきれいさっぱりなくなるまで、さほど時間はかからなかった。