twitterアンケから 射撃場のリーブさん / リブクラ / 文庫ページメーカー
地下の大きな空間に、破裂音が響いている。
少し離れたところで、ほんの少し暗い空間へ穴を開けるかのように炸裂するのは見慣れた閃光だ。コンクリート打ちの床にきんきんと落ちる金属も懐かしい。
距離を詰める格段に大きくなっていく音に耳を塞ぎつつ、クラウドはゆっくりとその音と光の中心に近づいていく。
「調子は?」
「上々です」
弾倉が空になった銃を置き、ゴーグルと防音用のイヤーマフを外しながらリーブは笑った。そして手元のボタンを押す。ジー、という無機質な音とともに遙か向こうから近づいてくるのは、先ほどリーブが撃っていた的だ。
「どうです?」
クリップから外して手に取った紙に空いている穴は、綺麗に中心に寄っていた。さすがにヴィンセントのような精密さはないが、一つも円の外に出ていないのはかなりの腕前と言ってもいい。昔のクラウドだってここまで中心に集めることはできなかっただろう。
「……妙にうまい」
「妙にって余計じゃありません?」
「だってあんた軍人じゃないだろ、どちらかといったらサラリーマンだろ。神羅の上役には射撃訓練が義務づけられてたりしたのか」
「まあ似たようなものは」
「あったのか」
「冗談です。私のこれは護身術の訓練の賜物ですね」
きっと才能があったんでしょうとリーブは笑う。
「これをちゃんと撃ったのはディープグラウンドのあの時ぐらいですけど」
「スプリンクラーな」
「そうそれ。あれは自分でもよく当たったものだと思いましたけどね」
クラウドは、弾倉を抜かれた状態で置かれているその銃に視線を落とした。銀色で小振りの、リーブが良く携帯している二十二口径。朝、ショルダー型のホルスターにしまっているのをたまに見かける程度で、実物を近くで見るのは初めてだ。だいぶ古い型ではあるが、丁寧に手入れをされているのがよく解る。
「……」
「あ、クラウドさんも撃ってみます?」
どうやらリーブは、クラウドのその視線を違う方向に勘違いしたらしい。クラウドは別にいいと首を振る。
「撃ちたい訳じゃない。火薬の匂いはちょっと」
「でもじっと見てたでしょ」
「撃ちたくて見てたわけじゃないよ」
そう、撃ちたくて見ていたわけではない。グリップに残った手の痕やホルスターの擦れた痕、銃身に残った小さい傷に、きっとこれはクラウドが考えるよりも長い間リーブのそばにいたのだろうと考えていた。そして、考えながら——嫉妬した。
「……ずるいなって思ってただけ」
「ずるい?」
「なんでもない、忘れてくれ。ところでリーブ、秘書の兄さんが呼んでたんだが」
頭の上に疑問符を浮かべていたリーブは、クラウドがわざわざ地下へきた理由を告げた瞬間、きょとん顔を何とも形容しがたい表情に変えた。やはりというか、なんというか、サボっていたらしい。
「早く戻れ。戻らないなら俺がお姫様だっこで連れて行っていいって許可をもらってる」
「へぁ!?」
「確か今日は社会科見学があったな。新しくできた学校の子が来てた」
「いやそれは堪忍してください行きます行きますから」
リーブの手が慌てながら、それでもよどみなく弾倉を入れ替えセーフティをかけてジャケットの下のホルスターに仕舞う。手慣れた様子にまた少しだけ、心の隅がつままれたような気になったが気づかない振りをして、せかせかと歩き出したリーブの後ろについていった。
階段を上がりエントランスを抜け、子供たちににこやかに手を振った後、幹部専用のエレベーターに乗りこむ。
「……」
そしてふと思いついたまま、素早くリーブを抱き上げた。
「……わぁー!?」
「ちょっとやってみたくなって。これならあんたに一番近いだろ」
「なにを言うてるんですかねこの子は!?」
一拍遅れて暴れ出すリーブをうまい具合にかわして押さえつける。
「俺がだっこしたくなっただけだ。だめか?」
「——んぁぁ卑怯!! その顔!! 自分わかってやっとるでしょ!! いいです!!」
「よかった」
「ああああもうお嫁行けんわ……」
「婿になるんじゃないのか? 俺の」
ひゃっと変な声がして、間近にあった顔がぱっと両手で覆われる。
その手の隙間から、消え入りそうな声で「なります……」という声が聞こえたのは、それからしばらくしてのことだった。