酒の勢いで添い寝されたクラウドちゃん / バレクラ / 文庫ページメーカー
仲間と寝てしまった。
目を覚まして、真正面に不安げな熊の顔がどんと出てきたその瞬間、クラウドはその前の晩のことをすっかり思い出していた。ただ、そのときの熊の顔があまりにも情けのないものだったから、とっさに嘘を吐いたのだ。
「おもいだした。あんた、ものすごく変な酔い方してたぞ」
途端に熊の――バレットの顔から一気に緊張が取れていったので、たぶんあれはあれで正解だったのだろう。至極安心した様子でシャワーに向かっていった。
「……安心した、か」
潜り込んだ布団の中で呟きながら、クラウドは手渡されたマテリアをぎゅっと握った。幾ばくか省略した詠唱をぽつぽつと紡ぎ、体中至る所に残された痕を魔法で拭っていく。
一つ一つを指先でなぞり、消していくたびに、昨晩の記憶がじわりじわりと頭の中に浮かんでは消えた。
確かに噛まれはしたが、普段のあの野獣めいた行動から考えれば驚くほどに優しかった――とは思う。有無を言わさず行為に及んだことには変わらないが、それでもこちらが押しのけたり、嫌がる様子を見せれば、すぐに止めてくれた。行為自体は止めてくれなかったが。
そしてクラウド自身も少なからず酔っていた。体に回ったアルコールは、ぶつけられる苦痛を和らげ、快感に変える手助けをした。結果的に、それはずぶずぶとクラウドを溺れさせることになった。
「……」
おおかた治し終えたことを確認すると、腕だけ出してマテリアを脇のテーブルに載せ、もぞもぞと布団を抱き込む。
目に見える痕は治せたとはいえ、身体の中には未だ昨夜の疲労が燻っている。目に見えない傷は魔法で治すには少々面倒だし、朝からそんな面倒なことはしたくなかったので、クラウドは大人しく自分の治癒力に頼ることにした。どうせ今日は出発しないのだ、朝食をすっぽかしたところで何も問題はない。
特に眠気には逆らわずうとうとと船を漕いでいたら、それまで機嫌良さそうに聞こえてきていたシャワールームの鼻歌が止んだ。若干荒っぽく扉が開けられ、ややあってのしのしと重量感のある足音が近づいてくる。
「あがったぞー」
機嫌が良いときのバレットは少しやかましい。ここは寝たふりでもしておこうと特に反応せず横になっていたら、上手い具合に勘違いをしてくれたようだった。
「……なんだ、もう寝ちまったのか」
寝てろって言ったのはあんただろうがと数分前のやりとりを思い出す。ただ、やはり口に出すと面倒くさそうなことになりそうなので、背中を向けたまま黙っていた。
バレットはそれきり何も言わず、反対側のベッドにどっかりと腰掛けたようだった。わしわしと頭を拭くような音がした後、それきり静かになる。
だが、
(……なんでこっち見てるんだ)
バレットの意識は明らかにこちらを向いていた。なぜこちらを見ているのかは解らないが、背中に視線が刺さっていることだけははっきりと伝わってくる。
ふと思い立って寝返りを打ってみたら、面白いくらいに動揺した気配が伝わってきた。うっすらと目を開けると、わざとらしくそっぽを向いている巨体が視界に入る。
(なんなんだ?)
いつもは呆れるくらいわかりやすいのに。
もしかすると、さっきのことをまた気にしているのかもしれない。安心したって言ったくせに、後からまた心配になってきたのだろうか。その普段とはまるで違う控えめな態度に、逆に腹が立ってしょうがない。
(あれだけその気にさせておいてなんなんだ)
そして、仲間とギクシャクしたくないとかいう建前を使って嘘を吐いた自分にも、馬鹿みたいにイラついた。
ふー、と大きめに息を吐くと、それだけでまたバレットの気配が面白いほどに動揺する。
別に怒りはしないのになと自分でも訳のわからない腹立ちをかみしめながら、クラウドは今度こそ、未だ相手の香りが残るマットレスに身を委ねた。