カラスの憂鬱:メールしてご飯食べてエッチする二人 / カンクラ / 文庫ページメーカー ※R18表現あり
因縁。
多分これが一番近い表現だろう、とクラウドは携帯の画面を見ながらそう思った。運命と言えるほど綺麗なものでもないからだ。
『今日会える?』
最近新しくした端末のメッセージアプリには、そんな吹き出しが表示されていた。昼頃、丁度クラウドが移動していた頃合いに来ていたそのメッセージのアイコンは、最近よく会うようになった人物のマスコットキャラクターだ。
「……」
クラウドはしばらく考えたあと、画面に指を滑らせる。
『大丈夫です』
ぽこん、という音が似合いそうなアニメーションとともに、自分の吹き出しが表示される。
三時間ほど経っているからもう見てないかな、と思ったその瞬間、すぐさま既読を示すマークがついた。そして、クラウドにはとても真似できない速さで、ぽこん、と吹き出しが返ってくる。
『了解 美味い店見つけたんだ クラウド君絶対好きだと思う』
続けざまに表示される店の場所をさっと見て、大まかな位置を思い浮かべる。確かに飲食店のような物があったような気がしなくもない。
『近くに車停められるから』
その一言が示す意味を察し、返事を打ち込もうとしたクラウドの指が少しだけ止まった。だが、すぐにまた動き出して返信を紡ぐ。
『わかりました』
間髪入れず、「やったー」と吹き出しの付いたチョコボの画像が送られてきた。それを会話の終わりと判断したクラウドは、今度は別の相手の連絡先を表示する。
ほんの少し迷って電話にした。呼び出し中の画面になり、幾ばくか緊張しながらも耳に当てる。
『――はい、どうしたの?』
「ティファ、今日なんだが」
余裕の感じられる声にほっとしながら、クラウドは今日の予定についてできるだけ淡々と話し始めた。
――因縁。そう、因縁だ。
そろそろ離れたいと思ったときに、思いも寄らない形で向こうから近寄ってくる。または、知らず知らずのうちに自分から近くに行っている。しかも、今は何をしてるんだろうかなんてふと気になった、そのタイミングで。
(俺が誘ってるわけじゃない)
夜のように黒い瞳に請われるがまま腰を動かしながら、クラウドは頭の中でそう吐き出した。
(あっちからくるんだ)
離れたいと思った時でも、今何をしてるんだろうかと気になった時でも、まるでその思考を読み取ったかのように向こうから来る。
(だから、)
「――なんか考えてる?」
「ア、やっ」
突然揺さぶられて思わず大きな声が出た。無駄なく引き締まった腹に思わずしがみつくと、骨張った大きな手がするするとクラウドの腰に伸びてくる。
「オレとイチャイチャしてるのに、別なこと考えてるなんて、悲しいなあ」
「ちが、ぁ、あ、」
「自分で動くの飽きちゃった?」
ぐ、と腹に力が入り、それまで少し離れていた瞳が一気に近くなる。いつもみたいに冷静な、それでも少しだけ荒い息が、とっくに蕩けきっているクラウドの耳をじわじわと侵す。思わず逃げようとするが、抱え込んだ両腕がそれを許してくれない。
「っ」
身体の角度が変わったせいで、中を貫く存在感が否応なしに増す。身体の奥底に届くか届かないかのそのもどかしさに、クラウドは思わず唇を噛みしめた。
「ん、……動いてほしい?」
まただ。またこの男は、クラウドの頭の中を簡単に読み取ってくる。
「それとも、動きたい?」
「ひぁ、や、それやっ」
「嫌じゃないだろ?」
どっち、とカンセルがまたあの熱のこもった声で囁いた。胸の内に滑り込んでくるかのような囁きは聞き分けのない子供に諭すようなそれだったが、童話に出てくる狡賢い烏のようにも聞こえる。もたらされる刺激と快楽にぐずぐずに溶けきったクラウドの思考は、ただそれすらも快感として拾い上げてしまう。
「クラウド」
「ひぅ」
さわりと脇腹をなで上げられ、喉から悲鳴じみた声が出た。ただ本当に欲しいものは得られずじまいで、ぐずる子供のように首を振る。
「ちゃんと言って」
わかるくせに、なんて普段の自分が言いそうな言葉は、腰をわずかに揺さぶられただけで蒸発した。辛うじて残ったのはただ、このもどかしさをなんとかしてほしいという懇願だけだった。
「ッ、う、うごいて、……ほし、です」
絞り出した声は、蕩けてしまう前にカンセルの耳に届いたらしい。
に、と目の前の男の唇が弧を描いた。重力の向きが変わり、安物のマットレスに背中が沈む。
「よくできました」
瞬間喉から迸った悲鳴は相手の口の中に消えた。耳障りなスプリングの音すらも明滅するに呑まれていき、しまいにはじっとこちらを見つめる、熱にあぶられて黒々とした瞳しか見えなくなる。
(にげられない)
怖気にも似た感覚が背筋を走り抜けた直後、クラウドの視界はスパークした。