リブクラ / pixiv ※R18表現あり
焦げた壁に押しつけた身体が震え、細い嬌声が上がった。一拍置いて、自分もまた押し寄せる快楽の波に低く呻くと、抱えた腰を力任せに引き寄せ、卑猥に仰け反る白い首筋に噛み付く。痛いなんていう快感で掠れた抗議には耳も貸さず、欲望をそのまま胎の中に満足するまで注ぎ込んだら、熱に浮かされた蒼い目から更に怒られた。
「出しすぎ……」
「——っはは、すみません」
僅かに浮いていた身体をおろしてやる。ずるりと引き抜くとすかさず手が伸び、被さっていたゴムを取り払っていった。そのさも名残惜しそうな手つきに、リーブの熱が再び刺激されそうになったが、最後の一枚だったことを思い出し理性で留める。
「……ほんと出しすぎ。溜まってたんだな、あんたも」
「久しぶりでしたし、まあ、こんな場所ですから」
「ゴムが残ってて良かった」
「机の奥に入れて置いて正解でしたね」
時折せがまれるキスに応えながら、彼の白い肌に散る体液を拭いてやる。クラウドはクラウドで手早くゴムを結んでしまうと、見事なコントロールでデスクの下に置いていたダストボックスに、まとめて放り込んだ。見つかりませんかねそこ、と言いかけたが、清掃員はもう来ない。どうせ取り壊すだけの建物に、見つかるも何もないなと思い返し言葉を飲み込んだ。
「今何時?」
「十五時です」
「……早く戻らないとな」
さらりとそんなことを言って、脱ぎっ放しだった下着やズボンを身につけていくクラウドは、もう既に普段の彼に戻っていた。先程まで奔放に喘いでいたとは思えない変わりようだが、首筋からわずかに覗く紅い痕が、つい今までの情事を匂わせ、かえってリーブの中の劣情を刺激する。
「クラウドさん、ちょっとこっち向いて」
「ん?」
これから男所帯の地上部隊に戻るというのにこれではいけない。リーブは自分の着衣を整えると、ソードホルダーと手袋を付けていたクラウドの振り向いた首筋に手を這わせる。ん、と不意を突かれた身体が跳ねると同時に淡い翠の光がともり、リーブが手を離したときにはもう、卑猥な痕は消えていた。
「痕が見えてます」
「残しておいても良かったのに。勿体ない」
「だめですよ。悪い虫が付いたらどうするんですか」
「リーブが追い払ってくれるんだろ」
「……そうですね」
煽るような目に誘われその瞼に唇を落とす。瞼から頬、そして唇へと誘われるがままキスをして、二人は焼け焦げ、破壊された局長室を出た。
ボロボロの廊下を通りエントランスに出ると、部隊の精鋭達とユフィ、そしてバレットとティファが、それぞれかき集めてきた武器のケースを足下に積み上げていた。他の隊員達はあらかた引き上げているところをみると、ちょうど良い時間だったようだ。
「おう!」
いち早く気づいたバレットが手を挙げる。それにつられて皆の視線が二人に向いた。
「どうだったよ?」
「クラウドさんのおかげで、安心して集められました。燃えてしまったものは諦めるしかありませんね」
「そうかい。こっちもありったけかき集めてきたぜ。厳しいが、なんとか全員に回りそうだ」
「マテリアもね!」
満足げにユフィが腕組みをする。その足下に置いてあるケースは、研究部門で保管していたマテリアだ。
それを見たクラウドが、わずかに眉を寄せて言った。
「……ちょろまかすなよ」
「しないよ! ってか、いつまでその話引きずってんだよ!」
「いやだって、ねえ。ユフィとマテリアがセットになるとどうしても」
「なあ」
わざとらしく渋い顔を作って頷きあうティファとクラウドに、「もー!」と怒るユフィ、そして「何かあったんすか」と話に乗ってくる隊員達と、得意げに顛末を教え始めるバレット。その光景は、これから繰り広げられるであろう壮絶な作戦の前触れとは思えないほどに穏やかなものだ。
——空と陸からの二面展開でミッドガルを叩く総攻撃の時間は、刻一刻と迫っていた。本部から略奪を免れた物資や情報を集め再配分し、部隊を編成した後は、血と硝煙の臭いに満ちた、星の命運を決める戦いが待っている。
ディープグラウンドソルジャー達が現れてからと言うもの二人が会える機会は恐ろしく減った。更に今回が最後かもしないという不安も相まって、二人は顔を合わせるとすぐに身体を重ねるようになっていた。どんな場所で求めても、クラウドは拒まない。むしろ自分から意図を汲み取ってくれる。一時間ほど前に、重要なレポートを回収するからクラウドを護衛に、と言った瞬間、彼の魔晄の目がわずかに情欲で細くなったのを、リーブは見逃していなかった。
束の間の休息、そして逢瀬を兼ねて本部に集まったリーブとクラウドは、それぞれ空と陸で己の役割を全うしなければならない。残存勢力をほぼ全て投入するこの大規模作戦の間は、まず間違いなく会えないだろうし、話もできるかどうか怪しいだろうとリーブは思っていたし、クラウドも同様だったのだ。まさか旧局長室で事に及ぶことになろうとは思わなかったが。
「——じゃあ、俺達は移動する。シドとヴィンセントに宜しく」
「わかりました。気をつけて」
これが最後かもしれない――なんて嫌な思考は頭から振り払い、地上部隊の後ろ姿をユフィと一緒に見送る。
「それじゃあ、私たちも行きましょうか」
空挺師団を連れて、リーブとユフィは外へ出た。未だわずかに立ち上る黒煙にけぶってはいるものの、空は快晴だ。透けるような青空を背景に、流線型の船たちが悠然と佇んでいる様はまさに絶景と言っても良かった。
それぞれの船に武器を割り振れるだけ割り振ると、二人はシドとヴィンセントの待つシエラ号に乗り込む。あらかたの指示出しを終え、先に乗り込ませていたケット・シーの隣に腰を落ち着けた途端、胸ポケットの端末が震えた。
取り出してディスプレイを見てみたら、そこには今頃はシャドウフォックスの荷台で寝ているはずの人間の名前が表示されている。
届いたメールにタイトルはない。
開いてみたら、ただ一行だけがそこにあった。
『次はいつ会えるんだ』
たったそれだけの言葉を打つのにどれだけ苦労したんだろうかと思わず笑ってしまったら、隣の分身が目ざとく「なんやえらい楽しそうですな」と端末の画面を覗き込んできた。油断も隙もあったもんじゃないな、とひょいと遠ざけると、むー、とその陽気な顔が不機嫌に変わる。
「ええやないですか」
「ダメなものはダメです。おとなしくしてなさい」
「しゃーないなあ」
一応おとなしくなったケット・シーを念のため警戒しながらも、リーブは返信ボタンを押した。きっともうダウンしているのだろうが、後で読んでくれればそれでいい。
『来週、私の部屋で』
送信した瞬間、身体が浮遊感に包まれる。シエラ号が浮いて、空挺師団全体が、ミッドガルに向けて移動を始めたのだ。
シェルクの準備が終わったら作戦会議が始まる。それまでに情報をまとめておかなければならない。分身の目を通して見てきた、凄惨かつ残酷な映像や地下の魔晄炉に関する情報を最適化するのは、いささか骨が折れそうだと、リーブは傍らの分身を見下ろした。
だが、それから後の方がもっと骨が折れる。もしかしたら骨が折れるどころでは済まないかもしれないがと自嘲気味に笑いながら、彼は端末をポケットにしまった。
「……来週までには落ち着いていると良いんですけどねえ」
「来週?」
「いえ、こちらの話です」
ゆらゆらと尻尾を揺らす猫の妖精の頭を撫でて、リーブは見事な夕焼け空を映し出している天井を見上げる。
本物の夕焼け空を、二人でゆっくり見上げられるのはいつになるのだろうかと、リーブは苦笑混じりの溜息を吐いた。