基本的にセフレの二人 / ツォンクラ / 文庫ページメーカー
「あんたからの電話はいつもややこしいな」
うつ伏せになり、枕を抱えながら携帯をいじっていた相手が突然脈絡のないことを言い出したものだから、ツォンは「いきなりなんだ」聞き返す羽目になった。
「意味がわからん」
「そのままの意味だ」
「だからその意味がわからんと言っている」
「あんた、いつも電話番号変えてくるだろ。だから客なのかそうでないのかすぐに解らないし、消すにしたって面倒くさい。……今回のはこれか?」
ひょいと見せられた通話履歴の画面には、つい先程使い捨てた携帯の番号が表示されていた。それだ、と答えると再び画面がそっぽを向く。指の動きから察するに、おそらくはその番号を消してくれているのだろう。態度とは裏腹に根は素直な奴だとつくづく思いながら、紫煙を仄暗い宿屋の天井に逃がす。
「消した」
「ああ」
「確認するか?」
「いらん」
後ろから見えていたと答えると、「そ」という実に味気のない単音と共に、ベッドに腰掛けていたツォンのすぐ側に携帯がぽすんと着地した。確認しないと言っているのに話を聞いていたのかこいつはと目線をやれば、今度はついついと指がツォンの向こう、備え付けの机の上を指し示した。
「そこに充電ケーブルがあるから」
「自分でやれ」
「立てないんだ、誰かさんのせいで」
「……」
そう言われてしまえば仕方が無い。
ツォンは溜息を一つつくと、言われた通り机の上にだらんと伸びているケーブルに携帯をつないでやる。
「やったぞ」
「ありがとう」
また素直な一言が返ってきた。そして、抱えていた枕をもぞもぞと頭の下に戻すと、完全に横になる。これはもう完全に寝ようとしているなと思った矢先、金色のふわふわが不意にこちらを向いた。
「あんた、帰らなくていいのか。仕事だろ」
「……つくづく思うが、お前には情緒を理解する機能が無いのか? クラウド」
思わず口を突いて出た言葉に対し、相手は——クラウドは心底不思議そうな顔をする。
「情緒? なぜ」
「……」
「……ああ、こういうことした後だから、もうちょっと甘い空気を味わいたい、とかそういうのか?」
恥ずかしげも無くすらすら言った。
「付き合ってないだろ、俺たち」
そして、ためらいもなく二の句を継いだ。
——確かにそうだ。ただこういうことをしているだけで、心が通じ合っているとか、愛し合っているとか、そういうことはまるでない。
タークスがらみの仕事の打ち上げで、互いに酒が入っていたからというごくごくありふれた、勘違いにも近い感情で持った関係はずるずると長いこと続いてはいるが、決してそういった甘い関係にはない。単に相性がいいだけの——同じ人を好きになっただけの相手だ。それはツォンもよく理解しているし、クラウドだってそうだった。
「そういう空気に浸りたいなら他を当たれ」
「そういうつもりで言ったんじゃない。ただ疑問に思っただけだ」
「そうか。それで、仕事は?」
「……はあ」
そこはかとない徒労感を感じたツォンは、そのままベッドに腰掛ける。そして咥えていた煙草を灰皿に押しつけ消すと、基本的に無礼なチョコボの隣に潜り込んだ。
「今日は休みだ」
「たばこ臭い」
「そうか。我慢しろ」
「我慢も何も、鼻が良いんだ」
「それは気の毒にな」
良いから黙って寝なさいと、背中を向けた相手をカイロ代わりに抱き込む。やはり「たばこ臭い」との文句が飛んできたが実力行使で引き剥がそうとまでは思わないようで、大人しくされるがままになってくれている。観念したかのように力が抜け、そしてふう、と息が抜けた。
「……毎日お疲れさま」
「そういうことは言えるんだな」
よしよしと犬にでもするように頭を撫でたら、「だからたばこ臭いってば」と怒られた。