[2019/07/08]バレクラ

ぱんこさんと盛り上がった夜泣きするクラウドちゃん / バレクラ / 文庫ページメーカー

 嗚咽が聞こえる。
 腕の中に閉じ込めた身体から押し殺した悲鳴のような嗚咽が聞こえてくる。夢と現実の狭間で一瞬混乱したバレットだったが、ぼんやりした頭のままほとんど反射で腕に力を込めた。
「だいじょうぶ、……大丈夫だ」
 腕の中の体温を拠り所に意識をはっきりさせながら、暖かい腹に手を当てて、震える耳元にそう呟く。
 息がかかって驚いたのか、一瞬身体がびくりと震えたが、やはり嗚咽は止まらない。これはしばらくかかるかもしれないと判断したバレットは、肩に——すっかり肉がそげて骨張っている肩に手をかけてこちらを向かせる。
「クラウド」
 返事の代わりに、ヒッ、と息を吸う音が聞こえた。
 魔晄色の両目は乾いている。ただ、見捨てられた子供のように深い絶望と混乱が滲んでいるのが見て取れた。涙こそは浮かんで居ないが、明らかに泣いていると解る顔だった。
「よし、よし、こっちこい」
 時分より何回りも小さい身体を抱きしめ、落ち着かせるように背中を撫でる。はあ、と吐き出された息すらも震えるぐらいには、クラウドの呼吸はおぼつかない。バレットの胸元に顔を埋め、シャツを握りしめるその手すらも小刻みに震えている。
 夜泣き、とバレットは呼んでいた。
 ある日から——あの古代種の都を後にした日から、クラウドは突然、夜にこうなるようになった。涙は出ないし喚くだけでもないから、本当に泣いているわけではないのかもしれないが、それでもバレットにはクラウドが泣いているようにしか見えなかった。
「どうした、ん? 変な夢でも見たか?」
「っ、っ、——ひっ、ぅ」
「よし、いい子だ、いい子だから」
 すがりついてくる身体を抱きしめ、昔マリンにそうしてやったように背中を撫でる。バレットの胸元に顔を埋め、ただぶるぶると震えるクラウドは何も言わない。そもそも嗚咽で何も言えないのかもしれなかった。
(こりゃ止まりそうにねえなあ)
 いつもなら酷くてもしばらくすると寝てくれるのだが、今日はどうもだめらしい。いつまでも呼吸がおぼつかない背中をずっと撫でてやっていたバレットは、今度はふわふわの金髪に指を埋めた。
「クラウド」
「ッん、ぅ、う……?」
「寝てえか」
 クラウドの瞳が、また違った揺らぎを帯びた。ややあってから、わななく唇がなんとか言葉を紡ぎ出す。
「ぁ、ね、ねたい、……ッひ、ねかして、……」
「わかった」
 頭に添えた手を今度は頬に添えてやる。優しく目元を撫でてやれば、それに反応したのかそうでないのか、ひ、とまた白い喉が鳴った。
「大丈夫だからな」
「っごめ、ごめん、——ごめ、」
「いいんだ」
 謝罪ばかりを繰り返す唇を、バレットは己のそれで優しく塞ぐ。
 そして、未だぶるぶると震える身体を夜から守るように組み敷いた。

三度の飯が好き

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