リブクラ / デンゼル / pixiv ※流血表現あり

 デンゼルはまだ子供だ。
 だから、まだできることよりもできないことの方が多い。背も小さいから電球の交換も机の上に椅子を乗せないと届かないし、夜遅くまで起きていられないから店の手伝いもできない。力仕事もできないし、チンピラを追い払うこともできない。車にも乗れないから配達もできない。
 早く大人になりたかったが、でも、ティファやクラウドは「それが子供だ」と言ってくれた。昨日と比べて何ができるようになったか、数えていけるのが子供の特権だと。だから、できないことが多くたっていいし、できないことが少なかったっていい。できることが増やせるのが子供だ。大人になってからできることを増やすのは難しいのだと。

 だから、デンゼルは勇気を振り絞る。
 今までできなかったことができるように。

 隠れていろと言われた物陰から駆け出して、ぎゅっと手を握りしめて目の前に立ちはだかったら、背中の方から絞り出すような声が聞こえた。やめろ、と言っているがデンゼルは聞かない。そんな声で言われたらいつもは素直にうんと返事をするが、今はどんなに大好きな相手のお願いでも、簡単に聞くなんてことはできなかった。
「デンゼル——」
「やだよ、おれ、どかない」
 何人もの足音が、彼らのいる路地裏に近づいてくる。頑張ってここまで逃げてきたが、追いつかれるのも時間の問題だろう。できるだけ見つかり辛いところを選んだし、変な人たちの数も減らした。ずっと前に助けは呼んである。あとは今できることをするだけだ。
「デンゼル、たのむ、お願いだから」
「やだ」
 彼は頑なにそう繰り返すと振り返る。
「たまにはおれに守らせてよね」
 白いワイシャツやジーンズの至る所を真っ赤に染め、行き止まりの壁に背中を預けて座るクラウドに安心させるように笑いかけると、彼は真っ直ぐ前を見つめた。

***

 ——日常が非日常に変わるのはいつも突然だ。

 今日だって本当は、仕事が休みのクラウドと一緒にエッジで買い物をしているはずだったのだ。久々にバレットが来てくれたから奮発するわよ、なんて鼻息荒く書き上げられた買い物メモに書かれたものを一つ一つ、買って回る一日になるはずだった。だが、突然人混みのなかで、デンゼルはクラウドに抱え上げられた。もう十歳なんだよと抗議しても、クラウドは抱っこを止めなかった。すぐ近くにあるクラウドの顔が、いつもよりも強ばっていることに気付いたのはその時だ。何かがあると気づいたデンゼルは、クラウドにしがみついた。
 その瞬間から「鬼ごっこ」が始まった。エッジは新興の、ろくに都市設計がされないまま生まれた街だ。複雑に入り組み、迷路のようになったエッジには、隠れる場所が沢山ある。エッジを遊び場にしているデンゼルと、どこにでも行けるクラウドが一緒にいれば、エッジは鉄筋とコンクリートで作られた大きな要塞になる。店に戻る、という選択肢もあったが、セブンスヘブンには普通のお客さんもいるから戻れない。だから、WROや他の人たちが来るまで、二人はエッジを縦横無尽に駆け抜けて逃げ回った。
 だが、襲ってきた人間達は強く、多かった。クラウドと一緒に何人か撃退したが、それでもまだ沢山いるようだった。それにあっちは武器を持った大人ばかりで、こっちは丸腰、しかもデンゼルという子供がいる。気が付いたら、クラウドの服は真っ赤になっていた。全部デンゼルをかばったからだ。
 傷が増えれば動きも鈍くなる。それまで避けられていたものも避けられなくなり、ビルからビルに逃げていた時に足を撃たれ、人気のない路地裏に落ちた。デンゼルはどこも怪我をしなかったが、クラウドはもう立てなかった。
「クラウド、これ」
「ありがとう。……デンゼル、あそこ隠れてろ」
 動けないクラウドの代わりに、遠くに落ちていた携帯を拾って渡したら、とん、と軽く背中を押された。クラウドの指は、放置されて長い時間が経っているであろう、ディープグラウンドの戦車の残骸を指している。
「静かになるまで、絶対に出たらダメだ。いいな」
「ダメって、クラウドはどうするの」
「……なんとかするさ」
 だから隠れてろ、と言うクラウドは笑っていた。怖がっていないし諦めてもいない笑顔だ。クラウドなら何とかしてくれる、そう思わせる力強い表情。
「……わかった」
 デンゼルは頷いて、戦車の陰に隠れた。
 子供には何もできないのだと、無力感を噛み締めながら、さび付いた車体に寄り添った。

***

 落下の弾みで切れてしまった電話をかけ直す前に、相手の方からかかってきたので、クラウドは苦笑しながら受話ボタンを押した。
『オイオイオイ大丈夫か!? 今行くからな! もうちょっとだ!!』
 途端にスピーカーから響く大音声に、思わず数センチ遠ざけてしまう。バレットと話すといつもこうだ。うるさくて耳にくっつけていられない。イヤホンなんてもってのほかだ。鼓膜が吹き飛んでしまう。
「……あんたのもうちょっとは、もうちょっとじゃないからな」
『もうちょっとっつったらもうちょっとなんだよ! つべこべ言わねえでそのまま繋いどけ!!』
「繋いでるよ」
 クラウドはスピーカーに切り替えるとコンクリートの上に置いた。手に力が入らなくなって、危うく落としてしまいそうだったからだ。WROが仕掛けてきているであろう逆探知を切ってしまってはまずい。
(……ちょっと、血を流しすぎた)
 クラウドはふうと息を吐いた。
 痛みは無視できるが失血はそうもいかない。ふさがりつつある場所もあるが、先ほど撃たれた太股と、落ちたときに裂けた腕の傷はまだ塞がってくれそうになかった。かいふくのマテリアでもあればもう動けているのだろうが、買い物に行くつもりで外に出てきたから、今は財布しか持っていない。
『なんでマテリア持ってかねえんだよお前はよ! 家にあんだろ!』
「近所の買い物に持って行くわけないだろ。……なくても何とかなるさ」
『現に今なんとかなってねえだろうが!』
「できることはある」
 マテリアは魔法や古代種の知識を使うために必要不可欠なものではあるが、魔法や技能の発動の糧になっているものは使用者本人の力だ。マテリアは力に形を与えているものにすぎない。
 形のない力は扱いづらいが、ただ単純に叩きつけるだけなら、マテリアがなくてもできると軍の講義で習った記憶がある。それに、似たようなことは何回かやった。僅かに物を動かすとかその程度だが、ありったけを込めれば何か違うかもしれない。
「全力でやればどうなるのか、ちょっと興味がわいてきたんだ」
『興味本位かよ!』
「悪いか」
『悪かねぇよ!!』
「悪くないのか」
 ふふ、と思わず笑ってしまったら、電話の向こうも僅かに険が取れた。聞こえてくるエンジン音やクラクションから、焦っているらしいことに変わりはないが、それでもいつものバレットに近くなった。
『店の方は心配しなくて良いぜ。オレと入れ替わりで警備がついた』
「うん」
『リーブにも連絡付けてある』
「わかった。ありがとう」
『あいつ怒ったら怖ぇんだな』
「怖いよ」
『デンゼルは?』
「隠れてる」
 クラウドは目線を横に投げた。デンゼルの小さな体は、戦車の陰にうまく隠れていて全く見えない。これなら音を立てない限りは大丈夫だろう。
「久々に遊んでやれるかと思ったんだが」
『恨みはあいつらにぶつけろよ。オレに八つ当たりすんじゃねえぞ』
「あいつらがあっさり吹き飛んだら、その時はあんたに頼むよ」
『何をだよ』
「だから八つ当たり」
『だからすんなっつってんだろ!』
 あっはは、と笑った瞬間、クラウドの聴覚が近づいてくる足音を捉えた。多く、そして近づいてきている。
「……来た。近いな」
『こっちもわかったぜ! すぐそこだ! 邪魔な奴らがいやがるから、片付けてそっちに行く!』
「待ってる」
 クラウドは深く息を吸う。路地の入り口にまだ人影は見えないが、足音は確実に近づいてきていた。じわじわと失われつつある魔力を手のひらに流し集め、整える。もともと魔法は得意だ。一般兵の頃から銃よりも魔法の方が扱いやすかった。それは今も変わらない。何人追ってきていて、そして何人吹っ飛ばせるかわからないが、バレットが来るまで持ちこたえられれば――そしてデンゼルが逃げられればそれでいい。
 だが、溜めていた魔力は放出することなく霧散することになった。
 霞む視界に、小さな影が横から飛び込んできた。はっきりと見えなかったが、クラウドにはすぐ、それがデンゼルだと解った。
「やめろ」
「やだよ」
「デンゼル——」
「やだよ、おれ、どかない」
 デンゼルはクラウドの方を振り返った。安心させるつもりなのか、にっと笑ってみせる。だが、その固く握りしめた手は震えていた。
「デンゼル、たのむ、お願いだから」
「やだ。……たまにはおれに守らせてよね」
 デンゼルの青い目がついと外れ、そして前を向いた。
 その後ろ姿に、今までの大切な人たちの後ろ姿が被った。それまで酷く冷静だった鼓動が恐ろしく速くなり、嫌な汗がじわりと滲む。
 もう足音はすぐ近くまで来ていた。きっとデンゼルの耳にも聞こえているだろう。早くどこかに隠してやらないといけないのに、手を伸ばしても届かない。
「っくそ、デンゼル、——デンゼル……!!」
 クラウドは力の入らない手を叱咤する。
 人影が路地の入り口に見え、そして、細い鉄の塊が視界に入ったその瞬間、クラウドの背中がコンクリートの壁から離れた。

 そして、乾いた音が路地裏に響いた。

 ぎゅっと目をつむったデンゼルは、いつまで経っても痛みや熱さがやってこないことに気づいて目を開けた。
「——デンゼル、大丈夫か? 痛くないか?」
「……クラウド」
 デンゼルはクラウドに抱き締められていた。見つめてくる蒼い瞳は穏やかだ。だが、彼のすぐそばで弾けるコンクリートや、クラウドの体の向こうから聞こえてくる知らない男たちの怒鳴り声、そしてじわじわと地面に広がっていく赤い液体が、クラウドの穏やかな顔とは正反対のものであるということをデンゼルに叩きつけてくる。
「クラウド、……クラウド、痛くないの!?」
「……大丈夫。デンゼルが一緒なら、痛くないよ」
 デンゼルの頬を撫でた手が、そのまま頭にぽすんと乗る。撫でてくる手つきはとても優しい。それがかえって、デンゼルの心に嫌な予感を広げていく。
「……大きくなったな」
 デンゼルは血塗れのシャツを握りしめた。
「クラウド、離して」
「静かになったら」
「クラウド、やだよ……やだって」
 だが、クラウドはデンゼルを離してくれない。クラウドはデンゼルの頭をゆっくりと優しく撫で続けているが、だんだんとその力が抜けていっているのが嫌でも解った。表情は店で家族と一緒にいるときによく見せてくれるそれだが、息が浅く、荒い。
「……本当に、大きくなったな……」
「そんな話、今しないでよ」
「——まだ死なねえのかよ! いい、もう直接行け直接!! どうせ動けねえよ!!」
「この狂犬が……!!」
 罵声とともに、一瞬銃の音が止んだ。探るような足音がゆっくりと近づいてくる。
 クラウドの腕に、抜けかけていた力が再び籠もったのが解った。何か来るのだ。
 デンゼルはクラウドの服を握りしめた。
「クラウド——」
「大丈夫。……大丈夫だから」
 掴まってろ、とクラウドは言った。しかし、デンゼルの視界には、クラウドの肩の向こうに、銃を構えた知らない男の人たちとすぐそこまで近づいてきている男が見えている。その目は異様にぎらぎらしていて、今まで見てきたどんな目とも違っていた。
 男がすぐ近くまで来た。そして、手に持った銃を、クラウドの頭に突きつける。
「散々走らせてくれやがって。これで終わりだ」
「……」
「安心しな。お前の頭を吹っ飛ばしてやったら、そこのガキもすぐ殺してやる。あばよ」
 デンゼルはぎゅっと目を瞑って、クラウドにしがみついた。

***

「うおおおおおおおお!!!」
 文字通りバレットの右腕が火を噴いた。進行方向にいる武装集団は、注意を完全に路地の奥に向けていたせいか、反撃する暇も与えられずにバレットとその後ろに続くWRO隊員に銃弾の嵐を食らって次々と無力化されていく。リーブには「徹底的に尋問したいので適当に残しておいてください」と言われたが、情報を掴んでいそうな人間が何人残っているのかなんて、正直気にとめていられなかった。
(やけに揃えてきたな)
 後ろから撃たれないよう、無力化した人間の武器を蹴り飛ばしながら心中で毒づく。どこかの横流し品なのか装備も整っているし、統制も取れていた。そしてなにより人数が多い。マテリアを持っていないのが不思議なくらいだ。いくらクラウドでも、武器もマテリアもなしでこの人数、そして質の人間たちとやり合うのは骨だったはずだ。
「——あそこだ!」
 WROが探知した座標が目の前に迫ってきた。廃ビルに挟まれた路地の入り口には、案の定というべきか、まだ五人ほどが固まっていた。きっともうバレット達には気づいているだろうが、背中をこちらに向けているのは好都合だ。先手必勝と右腕の銃を構え、そして遠慮なくぶっ放す。
 あっさりと障害物をのけてしまうと、バレットは路地裏に踏み込んだ。
「クラウド! デンゼル! 来たぞ!!」
「……バレットさん? バレットさん!!」
 奥から聞こえてきた声に、どうやらデンゼルは無事でいてくれたようだとバレットは胸をなで下ろす。しかしクラウドの返事がないことに、じわりと嫌な予感が胸中に広がった。
「今行くからな!!」
 声の聞こえてきた路地へ駆け込んだとたんに、コンクリートを埋め尽くす薬莢が目に入った。何発撃ちやがったんだと眉を寄せると同時に、火薬に混じって濃い血の臭いがする。
 臭いにつられて目を向けた路地裏は、まるで赤い絵の具をバケツでもぶちまけたかのように真っ赤だった。その真ん中に、これまた全身真っ赤のクラウドが背中を向けて座り込んでいる。
「おい!」
 赤やピンクや黄色の、よくわからないかけらの浮いている血溜まりにかまわず駆け込む。途中何か固い物を踏んだが気にしない。
「バレットさん、クラウド、クラウドが」
「おう」
 抱え込まれているのはデンゼルだった。彼もところどころに血が跳ねているが、それでも無傷のようだ。
 一方、クラウドの怪我は酷い。特に背中は目も当てられないくらいボロボロだ。
 だが、僅かに胸、そして背中が動いており、薄く開いた唇から空気が漏れている。
(生きてる)
 バレットはバングルのマテリアに魔力を集めた。失血に効くかどうかはわからないが、傷口が塞がれば少しはましになるはずだ。
 淡い星の命の光が、クラウドの体を包み込む。
「おい、しっかりしろ、おい!! ——衛生兵呼べ!! 早く!!」
 回復魔法をかけ続けながら隊員に指示を出す。その声が届いたのかそれとも回復魔法が効いたのか、僅かにクラウドの体が動いた。
「……ん、……バレット?」
「おう、オレだ! やーっと起きたか!」
「クラウド、クラウド大丈夫!?」
 今にも泣き出しそうなデンゼルの声に、薄く開いたクラウドの目がゆっくりと動いた。目線の先にデンゼルの姿を捉えると、荒い息を吐く口をわずかに緩めるのが見えた。
「デンゼル」
「お前のおかげで無傷だよ。邪魔な奴らはオレらが片付けちまったから、離してやれ」
 だが、クラウドは「はは」と力なく笑った。
「……固まってて」
「動かねえってか? しょうがねえな」
 血を吸ったシャツがまとわりついたクラウドの腕を掴み、そっと動かす。緩んだ腕の中からするりとデンゼルが抜け出し、改めて彼に怪我がないことを確認したバレットは、クラウドの身体を支えたまま、漸くやってきた衛生兵を呼んだ。
「こっちだ!! ……おい、もう少しだからな、まだ寝るんじゃねえぞ」
「……ほんと、あんたのちょっとは……ちょっとじゃないな……」
「文句は後だ後! 八つ当たりもな!」
 衛生兵が運んできた担架にクラウドの身体を乗せると、デンゼルに「ついてってやれ」と声をかける。
「お前がそばで守ってやるんだ」
「でも」
「手ぇ握ってやるだけでもいい。あいつ寂しがり屋だからよ」
 彼はもうすぐ溢れてしまいそうな顔で、しかし力強く頷くと、担架を追いかけていった。
「……くそったれ」
 血溜まりの中を駆け抜けていく小さな後ろ姿を見送りながら、バレットは真っ赤な路地裏の中で、一人悪態を吐いた。

***

 リーブが病室に顔を出せたのは、処置が終わったとの報せを受けてからだいぶ経ってしまった夜中のことだった。
 研究区画のさらに奥、ロビーの喧噪など届かない部屋の扉を静かに開ける。広めの部屋の隅に置かれたベッドはいくつかの大きな機械と点滴に囲まれていた。医療のことはまるでわからないが、その機械の数がいつもより多いことから、今回の怪我の程度がよほど酷い物だったのだろういう想像はついた。
「……おや」
 せめて顔だけでも見てから帰ろうとベッドをのぞき込んだリーブは、思いも寄らぬものを見つけて思わず声を上げた。酸素マスクを着け静かに呼吸をしているクラウドのそばに、僅かに栗色の癖っ毛が見えている。
 きっとずっとついていたのだろう。明日の朝また様子を見に来ることにして、リーブは静かに部屋を出た。
「——お疲れさまです局長」
「本当にあなたはいきなり現れるのが得意ですね」
 扉を閉めた瞬間すぐ後ろからかけられた声に、リーブは苦笑混じりに振り向く。ほとんど灯りを落とされた廊下の闇に紛れるようにして立っていたのはツォンだ。相変わらず気配も足音もない。
「あなたが来たということは、すべて終わったということでよろしいですか?」
「ええ。つつがなく」
「ありがとうございます。いつもすみません」
「とんでもない。久々の運動ができたと皆張り切って動いてくれました。……こちらが報告書です。既に局長宛にお送りしました」
 人気のない廊下を歩きながら、ツォンから渡されたタブレットを受け取る。
 夜間用に光を落とされた画面から読みとれたのは、今回の組織は気づかれないうちに肥大化していた反WRO組織のうちの一つであった、ということだった。その中でも、かつてクラウド達がやってきたテロ活動に強い反感と憎悪を抱く人間たちが寄り集まって結成したものらしい。リーブ本人というよりは、クラウド達戦役の英雄の抹殺が主な目的であったようだ。
 ツォンは話を続ける。
「武器、資金の調達元は現在も調査中ですが、八割方判明しています。残りの二割につきましては、ご支援をお願いしてもよろしいでしょうか」
「勿論ですよ。この書きっぷりからして、まだ他にもいるのでしょう」
「ご推察の通りです」
「……なるほど」
 リーブは溜息を吐いき、タブレットをツォンに返した。
 自分に矛先が向くならまだ慣れているが、クラウドやクラウドの大切な人たちが傷つけられるのは耐えられない。かつて彼らがやってきたことが巡り巡った因果でったとしても――そして、彼らがそれを受け入れたとしてもだ。
「その方々には思い知っていただく必要がありますね。星を守った英雄にちょっかいを出すことがどういうことか」
「自分の飼い犬に、では?」
「あなたも言うようになりましたねえ……」
 実際その通りなんですが、という言葉は口に出す前に飲み込んだ。

三度の飯が好き

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