リムサのモブとうちの リヴァイアサン討滅戦後ぐらい
これもまだ口調が荒っぽい
そこはかとない頭痛で起きたときは大抵やらかしたときだ。
脈打つような痛みとともに目を開けてみれば、そこは宿屋の部屋でも、自分の家でもない場所だった。
(……ただ見覚えはある)
それにこの匂いも覚えがある。いやものすごく覚えがある。申し訳ないことをしてしまったなあと、罪悪感と頭痛で頭を抱えながらごろんと寝返りを打ったら、丁度視界に収まった部屋の扉が開いた。
「お、起きてた」
「やっぱりあんたか……」
第一声に大変失礼な言葉を投げかけてしまったが、相手は——体格の良い中年のハイランダーは特に気分を害した様子もなく、「声ヤバいな」とだけ言った。
「ガッサガサじゃねえか」
「あー」
「飴ちゃんいるか?」
「いい」
「まあ持っとけ。その声でお仲間の前に出てみろ、要らん心配されちまうぞ」
ほらよ、と目の前のナイトテーブルに可愛らしい包みが置かれる。モーグリやチョコボが描かれたそれの、やけに明るいパステルカラーが目に染みて、思わずもう一度寝返りを打って背を向ける。後ろに立っていた気配は渋めの溜め息を一つおとすと、よっこらせ、という年寄りくさい一言とともにベッドに腰掛けたようだった。
「相当飲んだな?」
「……覚えちゃいるが数えてない」
「だろうよ」
「吐いた?」
「ここじゃ吐いてねえ。向こうじゃ知らんが、ま、見た感じは大丈夫だったな。服も汚れてなかった」
それを聞いて安心した。
だが、それならどうして服がないのだろう。しかも下着すらない。確かに寝るときは脱ぐ派だが、自分で脱ぐようなタイミングはなかったはずだ。相変わらず鈍い頭の上に疑問符を浮かべていたら、おもむろに背中の気配が動いた。簡素な寝台が軋み、背中が外気に晒されて、そしてざらざらとした手が脇の下に潜り込んでくる。
なるほどそういうことか。それなら服がない方が早いなど納得したものの、残念ながらまるで本調子ではない。頭痛は居座ったままだし関節も少しばかり酒のせいで悲鳴をあげている。
「あー……言っとくけど今の俺はマグロ以下だぞ、大丈夫か」
「エイよりゃマシだ」
「待った冗談だろ? エイに突っ込んだそれ突っ込むのか?」
「冗談に決まってんだろが」
本当かよという言葉は押し殺された声に変わった。ごつごつした手が肌の上を這い回り、胸を辿って、臍の辺りまで下りてくる。
「しばらくご無沙汰だったんでな。それにお前さんを回収した手間賃も貰ってねえし」
「いつも手間賃なんかやってないのにどういう風の吹き回しだよ。前半は良いとして」
「お前さんを拾いに行ったら、お仲間だけじゃなくて海雄旅団のお歴々も提督も居たんだよ。そこで酒場のマスターに『いつもすまんねえ、あとはよろしく頼むよ』とか言われてみろ」
「……あー」
「目が全部こっち向いたぞ、全部。寿命縮んだかと思った。だからその分の手間賃寄越せや」
「しょうがねえな、わかったよ」
ついに完全にブランケットが剥がれた。手の力に抵抗せず仰向けになったら、獣のようなぎらつく目をした男に食いかかられる。先程までの穏やかで人の良い漁師という印象はまるで吹き飛ぶその様子に、相当溜まってたんだなあと頭をぽんぽんと撫でてやると、「余裕じゃねえか」と荒い息混じりで絞り出すような声が聞こえてくる。
「腰立たなくしてやるから覚悟しとけ」
「午後用事あるからそれはちょっと、んっ」
抗議の言葉は文字通り相手に食われた。無遠慮に割り込んでくる舌を受け入れ、吸い付き、そしてふしだらに腰を擦り付けてやれば、相手の肌がカッと熱くなったのが解った。
せめて歩ける程度に頼むよ、なんてお願いがちゃんと言えたかどうかすらも解らず、乱暴な手に暴かれるがままに任せて、広い背中に手を回した。